ごめんなさいね。原稿さぼってて。
時期はずれの1992年ベストです。
宮部みゆきは昨年の『龍は眠る』に引き続いてSR連続第1位。おまけに4長編全てがベスト15に入るなんて、やっぱりあの人はただものじゃない。
第1位 『火車』
なんとも圧倒的。休職中の刑事が人探しを頼まれたことより思わぬ事件に巻き込まれる。失踪した女性は実は別人の戸籍名を名乗っていたのだ。彼女はいったい何者。そして彼女が使った名前の持ち主は何処へ消えたか。執拗な追跡の果てに現代社会の暗部と圧倒的な敵に対してたった一人で戦った女の肖像が浮き上がってきた。
重い、無茶苦茶重い。中身だけでなく物理的にも本当に重い本だった。もっと削れよ。それはともかく、あまりにも救いがなさ過ぎるので、ヒロインがこの苦境から逃れる方法を思わず真剣に考えてしまいました。
第11位 『スナーク狩り』
一丁の銃という触媒により人は怪物と化した。
不実な恋人の結婚披露宴に乗り込もうとした女性の手から、
怪物を許せないと思いそれに対峙したときその人もまた怪物と化した。
複数の登場人物が並列に動くサスペンス小説。
なかなかこわいものがあった。
誰が悪いのか。なんのせいなのか。
カタルシスは得られない。不条理感のみが残る。
この作者はやはり悪が実在することを信じている。
うーん、レビューにならない。
第14位 『今夜は眠れない』
降って沸いた5億円の遺産のために、主人公の少年の親子三人は一家離散。さらには自らの出生にまで疑惑を抱いてしまう。ひねた友人とともに事件の解明に向かった彼はあれよあれよのうちに結末まで持って行かれてしまう。
少年の一人称なので期待だったがもう一つ。リリシズムが足りない。でも、書きようによってはいくらでも重くなるテーマをさらりと流したのも作者の力ではあるだろう。
第2位 笠井潔『哲学者の密室』
なんとも圧倒的。このボリュームときたら。10年ぶりに矢吹駆の復活。<日本最長の本格密室推理>ということで背には表題が横書き!で銘打たれている。
矢吹駆、大好きだったんだよね。僕が唯一持っているクラシックのCDがマーラー『大地の歌』なのは当然この曲を駆がテーマソングとしていつも口笛で吹いていることに由来する。生は暗く死もまた暗い。
でも今回は哲学を語る部分が圧倒的なだけでミステリーの部分は実に貧弱。あの『サマー・アポカリプス』の多重構造にはお呼びもつかない。
本書において駆の思想上の対抗者となるのは二十世紀最大の哲学者マルティン・ハルバッハその人。あるいはハルバッハよりもさらにハルバッハ的なジークフリート、ハインリヒ・ベルナー少佐。死の哲学の欺瞞を衝くというのが最大の眼目。モティーフとして第一作『バイバイ、エンジェル』の××××××の死にざまが繰り返し繰り返し語られる。
アンチ・ミステリーは中井英夫『虚無への供物』に端を発した。洞爺丸事件等々の大量死の時代に対する告発として。そして本書では強制収容所における効率的な大量の死。アンチ・ミステリーとして人類史上最も稀なる舞台をとったわけだ。私見であるアンチ・ミステリーの四要素(過剰なこと、寓意を持つこと、破綻があること、時代の産物であること)も全て満たされる。
意外だったのは今までの三作に巨大な影を落としていた悪霊ニコライ・イリイチの存在が希薄なこと。イリイチの出生の秘密まで関わってきたので固唾を飲みながら読んでいると肩すかしを食らった。
だけど駆とイリイチの対決はどうしてもこの作をターニング・ポイントとして変わって行かざるを得ない。僕はこの連作は駆とイリイチの闘争を時間軸に取った一種の教養小説だと思っていたのだが、この作は明らかにアンチテーゼだ。どうアウフーベンしてくれるかお手並み拝見。次作『デュパン第四の事件』と『オイディプス症候群』(どっちが早いか?)には期待します。
第15位 加納朋子『ななつのこ』
鮎哲賞受賞作。ヒロインが童話集『ななつのこ』の作者に日常の謎を書き送るという設定。どうしても北村薫の亜流ぽくなってしまう。作中の佐伯綾乃作の『ななつのこ』がとっても読みたくなってしまった。困った。
第21位 大西巨人『三位一体の神話』
なんとも圧倒的。<EQ>に長期連載された(笑)文芸ミステリー巨編。
主題は金(天才)に対する銀(非天才)の芸術上本質的に勝ち目のない戦い。大西巨人当人としか考えられない作家が自作『三位一体の伝説』を巡って殺される、というメタ・ミステリー。アンチ・ミステリーなのかどうかはよくわからん。
文章に極めて特徴あり。執拗に具体的にかつ精緻に記述しようという執念が感じられる。様々な些事すらも注釈括弧つき。インタビュー、随筆、評論、手記など細胞のように融合させられる。決して読みやすくはないがインパクトは極めて大きい。
ミステリーとしての構成は割とありきたりだったりもして、もっと形而上してくれてもよかったとは思うのだが、この文体に敬意を払って92年ベスト1に推しておきます。
第23位 綾辻行人『黒猫館の殺人』
前作『時計館』からがくんと落ちた。島荘の『眩暈』を先に読んでいたので仕掛けがわかってしまった、といってもこれは綾辻の責任ではないな。折角ポオを使える話なのにもう一つのネタの方に重心が移ってしまってどうも中途半端。安心してけなせる凡作。
というわけで僕の92年ベストは(別表参照)
まあ発行のときに時期がはずれても後で読み返せばいっしょですよね。