年間ベスト書評は本頁の目玉の一つでしたが、随分間が空いてしまいました。形式を簡略化して続行します。新たなコメントは総括と自分のベストの短評に留め、個々の作品については読了直後の書評にリンクします。
さて、この年はベスト投票前に新人・二年目くらいの本を一生懸命読んでいたにも関わらず、ふたをあけてみると上位はベテランばかりで当て外れとなった。
SRに限らず各種ベスト1を総なめにした大ベテラン泡坂妻夫の『奇術探偵曾我佳城全集』が私にとってもベスト。
『天井のとらんぷ』(1983)、『花火と銃声』(1988)収録作に今回単行本初収録となる七編を加えたもの。
曾我佳城の探偵譚はこれで完結。佳城初登場の1980年から作者はこうした構成を意識していたに違いない。
初期の作品に対して最近の作品は作者の衰えも感じさせられるが、描かれた世界の雰囲気はいつも同じである。奇術好きな者たちが大勢集い、その中心に美貌の閨秀奇術師佳城がいる。
佳城が心血を注いだ魔術城の落成式は盛大に催され、宴の終わった後の寂しさを静かに噛み締めるしかない。
私の第2位は、麻耶雄嵩『木製の王子』。デビュー以来苦手だ苦手だと言いながらもほぼ全作をリアルタイムで読んできたが、これはよかった。
二重のいとこ同士の結婚により奇妙な家系図を持つことになった白樫家と那智家の家族が棲む屋敷は比叡の山中にあった。
幼いころさらわれた安城則定は自分が白樫家にゆかりがあるのではと思い一家に近づこうとするが、彼が屋敷に立ち入ったその日、姉かもしれないと思う晃佳が首を切断されて殺される。
関係者全員にあてはまる精緻なアリバイには圧倒される。だが、そんなものは本質的なことではなかった。
個人の、そして家族の幸福を願うがための妄執が悲惨極まりない事件を引き起こす。
狂気の論理をここまで組み立てた手腕には脱帽。
第3位は、芦辺拓『怪人対名探偵』。
かつて帝都を震撼させた怪人が現代日本に甦える。<殺人喜劇王>を名乗る復讐鬼が犯す戦慄の犯罪の数々。
時計台の磔刑、気球の絞首刑、拉致した美女への拷問。
これに対決するのは日本一地味な名探偵、森江春策。
江戸川乱歩への見事なまでのオマージュ。作者のこだわりが現代本格の手法と融合して傑作を生んだ。
この年のSR2位の『真説ルパン対ホームズ』を未だ読み逃しているのは残念。
第4位は、SRでは惜しくも得票数不足の藤岡真『六色金神殺人事件』。
保険会社調査員のヒロインは、青森からの帰りに偶然に津本町に迷い込む。
折しもそこでは町興しのために古来から伝わるという六色金神伝紀を元にした祭が開催されるところだった。
ところが大雪のために交通がストップして町は完全な陸の孤島と化した。そんな中で六色金神を模した連続殺人劇の幕が切って落とされた。壁にめり込むほど凄い力で叩きつけられた学者。流星のように燃えて落ちる町長。そして、……。
凄かった。これは凄かった。
果してこの話きちんと収拾がつくのだろうかと思って読んでいたのだが、こう来たか。呆然唖然、そして納得。
世界が崩壊するのを見せてもらった気がする。
第5位は、古処誠二『UNKNOWN』。
第14回メフィスト賞受賞作。自衛隊基地という現代日本でおそらく最高レベルの機密状況を舞台に取ったミステリー。
自衛隊レーダー基地の警戒監視隊の部隊長の電話に仕掛けられた盗聴機。
厳重極まりない密室の謎に挑むのはこのために派遣されてきた防諜のエキスパート、防衛部調査班の朝香仁二尉。読者はそのサポートを命じられた語り手の野上三曹とともに状況に翻弄される。
このところ水増し長編が多い中、その薄さだけで好感を持ってしまったが、そうした第一印象は裏切られない。
綿密な取材の成果か、あるいは全くの想像の産物か、本書にはそうありうべきことがありうべきようにきっちりと書かれている。
論理と人間性についての描写は確かなものがある。
その他に
.若竹七海『クール・キャンデー』、
.有栖川有栖『幽霊刑事』、
古泉迦十『火蛾』などが印象に残った。
新人が頑張ったようでいて、実はベテラン勢の頑張りにかかっていたような年だった。
さらに、いわゆる新本格以来のミステリブームという宴も『奇術探偵曾我佳城全集』という半分以上が旧作である作品が一位になったことを象徴されるよう、この年に終わったと思う。