この年は投票までにそこそこ読んではいた。ところがベスト20の結果はかなり予想外で読み足しを余儀なくされた。
不作の年には違いない。島久平がベスト4だったり、シリーズものが結構上位に来ていたり。
だがこの年から新しい流れが明白になってきたと思う。乙一のベスト10入り。舞城王太郎『熊の場所』の三島賞候補入り。
西尾維新のデビューもこの年で、講談社ノベルスの表紙がアニメ絵に席巻されるようになる。
それらのこととは関係なく、私のベストは以下の通り。
ベストは西澤保彦『聯愁殺』。
かなり久しぶりに手に取った作者のノン・シリーズ長編。
未成年の連続殺人犯に殺されかけるという過去を持つヒロインは、迷宮入りしそうなその事件の解明を著名推理作家や警察OBなどからなる<恋謎会>に依頼する。彼女は自分が狙われた理由が明らかになることを期待していたのだが、議論の行く末は思わぬ方向へ……。
バークリー『毒入りチョコレート事件』のような集団推理形式だが、作者の意図は別のところにあった。
人の心の底知れぬ闇が不気味でなおかつ痛々しい。
第2位は笠井潔『オイディプス症候群』。矢吹駆シリーズの十年ぶりになる第五作。
ナディアは友人の医学者の依頼を受けて矢吹駆とともにクレタのミノタウロス島に赴いた。島では免疫を破壊して死に至らしめる新種の伝染病について討論されるはずだったのに、電話線は切断されクルーザーは嵐に転覆して外界との連絡は絶たれる。そんな中で人々はミノタウロスの神像への捧げもののように殺されていく。 典型的なクローズド・サークルの中で議論される私とは何かという哲学的問いかけが、外界との向き合い、
外部と内部の境界の線引きなど彼らが瀕している状況と奇妙に一致する。
ミステリーとしても力作で強く物語として印象付けられる。
哲学部分とミステリー部分の融合がかなりよいところまで成し遂げられ、前作『哲学者の密室』よりも遥かにできはいい。
弟3位は竹本健治『フォア・フォーズの素数』。
『閉じ箱』に続く九年ぶりの著者の第二短編集。
作者の資質が全開の非常に質の高い作品が揃っている。特に好きな作品は、表題作「フォア・フォーズの素数」、「白の果ての扉」、パーミリオンのネコ・シリーズの「銀の砂時計が止まるまで」など。
「フォア・フォーズの素数」では少年が失った友への鎮魂の思いを込めて四つの4の間に数学記号を入れて自然数をつくるパズルにのめりこんで行く。四則算、括弧、ルートから始まって階乗、ベキ乗、順列、組合せ、……と用いる記号もどんどんと増えていく。それだけなのに作中の少年のわくわくどきどきがそのまま伝わってきて実に楽しい。そして、結末の苦さも甘受すべきものを受け入れたようでどこか心地よい。
実によかった。こんなのをまた読ませてほしい。
第4位は島久平『島久平名作選』にしておく。
これは作者の第一短編集ということになり、2002年の新刊扱い。
本書の殆どが私立探偵伝法義太郎の登場作。
伝法探偵の出くわす事件には風変わりな感触がある。本格ものとはちょっと言い難く、ハードボイルドとも通俗ものとも異なり、人情ものの味わいもあるがそれだけが売りではない。
作風は派手さはないものの一作家一ジャンルといってもいいくらいなユニークさを持つ。
こうやってまとまって読めたことにより島久平という作家の再評価ということだけでなく、探偵小説というジャンル自体にまた幾分かの豊潤さを加えてもらった思いがする。
これでようやく2003年の本が読める。