2002年ベスト

2002年ベスト


 この年は投票までにそこそこ読んではいた。ところがベスト20の結果はかなり予想外で読み足しを余儀なくされた。
 不作の年には違いない。島久平がベスト4だったり、シリーズものが結構上位に来ていたり。
 だがこの年から新しい流れが明白になってきたと思う。乙一のベスト10入り。舞城王太郎『熊の場所』の三島賞候補入り。 西尾維新のデビューもこの年で、講談社ノベルスの表紙がアニメ絵に席巻されるようになる。
 それらのこととは関係なく、私のベストは以下の通り。

 ベストは西澤保彦『聯愁殺』。 かなり久しぶりに手に取った作者のノン・シリーズ長編。 未成年の連続殺人犯に殺されかけるという過去を持つヒロインは、迷宮入りしそうなその事件の解明を著名推理作家や警察OBなどからなる<恋謎会>に依頼する。彼女は自分が狙われた理由が明らかになることを期待していたのだが、議論の行く末は思わぬ方向へ……。 バークリー『毒入りチョコレート事件』のような集団推理形式だが、作者の意図は別のところにあった。 人の心の底知れぬ闇が不気味でなおかつ痛々しい。

 第2位は笠井潔『オイディプス症候群』。矢吹駆シリーズの十年ぶりになる第五作。 ナディアは友人の医学者の依頼を受けて矢吹駆とともにクレタのミノタウロス島に赴いた。島では免疫を破壊して死に至らしめる新種の伝染病について討論されるはずだったのに、電話線は切断されクルーザーは嵐に転覆して外界との連絡は絶たれる。そんな中で人々はミノタウロスの神像への捧げもののように殺されていく。 典型的なクローズド・サークルの中で議論される私とは何かという哲学的問いかけが、外界との向き合い、 外部と内部の境界の線引きなど彼らが瀕している状況と奇妙に一致する。 ミステリーとしても力作で強く物語として印象付けられる。 哲学部分とミステリー部分の融合がかなりよいところまで成し遂げられ、前作『哲学者の密室』よりも遥かにできはいい。

 弟3位は竹本健治『フォア・フォーズの素数』。 『閉じ箱』に続く九年ぶりの著者の第二短編集。 作者の資質が全開の非常に質の高い作品が揃っている。特に好きな作品は、表題作「フォア・フォーズの素数」、「白の果ての扉」、パーミリオンのネコ・シリーズの「銀の砂時計が止まるまで」など。 「フォア・フォーズの素数」では少年が失った友への鎮魂の思いを込めて四つの4の間に数学記号を入れて自然数をつくるパズルにのめりこんで行く。四則算、括弧、ルートから始まって階乗、ベキ乗、順列、組合せ、……と用いる記号もどんどんと増えていく。それだけなのに作中の少年のわくわくどきどきがそのまま伝わってきて実に楽しい。そして、結末の苦さも甘受すべきものを受け入れたようでどこか心地よい。 実によかった。こんなのをまた読ませてほしい。

 第4位は島久平『島久平名作選』にしておく。 これは作者の第一短編集ということになり、2002年の新刊扱い。 本書の殆どが私立探偵伝法義太郎の登場作。 伝法探偵の出くわす事件には風変わりな感触がある。本格ものとはちょっと言い難く、ハードボイルドとも通俗ものとも異なり、人情ものの味わいもあるがそれだけが売りではない。 作風は派手さはないものの一作家一ジャンルといってもいいくらいなユニークさを持つ。 こうやってまとまって読めたことにより島久平という作家の再評価ということだけでなく、探偵小説というジャンル自体にまた幾分かの豊潤さを加えてもらった思いがする。

 これでようやく2003年の本が読める。



◆宮澤2002年ベスト

1.西澤保彦『聯愁殺』G
2.笠井潔『オイディプス症候群』G
3.竹本健治『フォア・フォーズの素数』F
4.島久平『島久平名作選』F


◆SRの会2002年ベスト

1.真保裕一『誘拐の果実』(集英社)
2.
石持浅海『アイルランドの薔薇』(光文社ノベルス)
3.高野和明『グレイヴディッガー』(講談社)
4.島久平『島久平名作選』(河出文庫)
5.倉知淳『描丸先輩の推測』(講談社)
6.法月綸太郎『法月綸太郎の功績』(講談社ノベルス)
7.横山秀夫『半落ち』(講談社)
8.乙一『GOTH』(角川書店)
9.西澤保彦『聯愁殺』(原書房)
10.加賀美雅之『双月城の惨劇』(光文社ノベルス)
11.笠井潔『オイディプス症候群』(光文社)
12.東野圭吾『ゲームの名は誘拐』(光文社)
13.連城三紀彦『白光』(朝日新聞社)
14.光原百合『十八の夏』(双葉社)
15.北森鴻『狐闇』(講談社)
16.北森鴻『触身仏』(新潮社)
17.連城三紀彦『人間動物園』(双葉社)
18.東野圭吾『トキオ』(講談社)
19.折原一『倒錯のオブジェ』(文藝春秋)
20.加納朋子『虹の家のアリス』(文藝春秋)
21.林泰広『見えない精霊』(光文社ノベルス)
22.柄澤齊『ロンド』(東京創元社)
23.島田荘司『魔神の遊戯』(文藝春秋)
24.西尾維新『クビキリサイクル』(講談社ノベルス)
25.西澤保彦『人形幻戯』(講談社)
26.有栖川有栖『マレー鉄道の謎』(講談社)
27.松尾由美『バルーン・タウンの手毬唄』(文藝春秋)
28.若竹七海『死んでも治らない』(光文社)
29.泡板妻夫『飛奴』(徳間書店)
30.芦辺拓『メトロポリスに死の罠を』(双葉社)
31.麻耶雄嵩『まほろ市の殺人 秋』(祥伝社文庫)
32.歌野晶午『世界の終わり あるいは始まり』(角川書店)
33.霧舎巧『名探偵はもういない』(原書房)
34.氷川透『人魚とミノタウルス』(講談社)
34.氷川透『追いし者 追われし者』(原書房)
36.山田正紀『僧正の積木唄』(文藝春秋)
37.近藤史恵『桜姫』(角川書店)
38.東野圭吾『レイクサイド』(実業之日本社)
39.殊能将之『樒/榁』(講談社ノベルス)
40.石崎幸二『袋綴じ事件』(講談社ノベルス)
41.初野晴『水の時計』(角川書店)
42.土屋隆夫『聖悪女』(東京創元社)
43.霞流一『首断ち六地蔵』(光文社)
44.後藤均『写本室の迷宮』(東京創元社)
45.伊坂幸太郎『ラッシュライフ』(新潮社)
46.東川篤哉『密室の鍵貸します』(光文社ノベルス)
47.鯨統一郎『タイムスリップ森鴎外』(講談社)
48.高田崇史『QED式の密室』(講談社ノベルス)
49.蘇部健一『木乃伊男』(講談社ノベルス)
50.倉知淳『まほろ市の殺人 春』(祥伝社文庫)
51.山口雅也『奇偶』(講談社)
52.二階堂黎人『増加博士と目滅卿』(原書房)
53.我孫子武丸『まほろ市の殺人 夏』(祥伝社文庫)
54.有栖川有栖『まはろ市の殺人 冬』(祥伝社文庫)
55.霧舎巧『四月は霧の00密室』(講談社)
56.浦賀和宏『浦賀和宏殺人事件』(講談社)
56.北山猛邦『『クロック城』殺人事件』(講談社ノベルス)
58.森博嗣『捩れ屋敷の利純』(講談社ノベルス)
59.歌野晶午『館という名の楽園で』(祥伝社)
60.三浦明博『滅びのモノクローム』(講談社)
61.折原一『樹海伝説』(祥伝社)
62.西澤保彦『ファンタズム』(講談社)

短編集
芦辺拓『明智小五郎対金田一耕助』(原書房)

得票数不足
舞城王太郎『世界は密室でできている。』(講談社ノベルス)
大倉崇裕『ツール&ストール』(双葉社)
仙川環『感染』(小学館)
島田荘司『吉敷竹史の肖像』(光文社ノベルス)
西尾維新『クビシメロマンチスト』(講談社ノベルス)
西尾維新『クビツリハイスクール』(講談社ノベルス)

リスト外
竹本健治『フォア・フォーズの素数』(角川書店)
京極夏彦『覗き小平次』(中央公論社)
舞城王太郎『熊の場所』(講談社)
古処誠二『ルール』(集英社)
川田武『乱歩邸土蔵伝奇』(光文社文庫)




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