読書日記  2003.12

読書日記  2003.12


[2003.12.10]
 パソコン故障によりNETから落ちていました。ご心配をおかけしたり不義理した方には申し訳ありませんでした。修理の方はまだまだ時間がかかるとのことで、待ちきれないので新機を購入して復帰しました。環境設定の方はまだ不十分ですが。

 さて、本日は
中井英夫のちょうど没後十年目の命日。さらには『虚無への供物』作中冒頭での「サロメの夜」から四十九年目。
 ”黒天鵞絨のカーテンは、そのとき、わずかにそよいだ。小さな痙攣めいた動きがすばやく走りぬけると、やおら身を翻すようにゆるく波を打って、少しずつ左右へ開きはじめた。”
 序章「1.サロメの夜」「2.牧羊神のむれ」「3.月の夜の散歩」「4.蛇神伝説」「5.ザ・ヒヌマ・マダー」。下谷竜泉寺のバア”アラビク”でサロメの踊りを見物していたアリョーシャ光田亜利夫と奈々村久生はアイちゃんこと氷沼藍司に会う。アイちゃんは怪しいアイヌを目撃して追いかけたために約束に遅れてきたと言う。久生はその話から早速、洞爺丸事件の遺族である氷沼家に漂う暗雲を嗅ぎ取る。
 改めて読んでみると、既にここまででさまざまな要素や伏線がもう散りばめられている。氷沼家の祖父誠太郎はそのまま中井英夫の祖父であるし、『虚無への供物』が『虚無への供物』足りえている実在事件への言及も満載である。

 昨晩、読めなかった本を図書館に返しにいった帰りに、中井英夫終焉の地の田中医院に寄ってみた。今は豊田駅前クリニックと名前も変わり小奇麗になっているが、外壁のレリーフは十年前を忍ばせる。月の綺麗な晩だった。


[2003.12.10]更新
 <読書日記>2003.12.10


[2003.12.11]
 PCクラッシュの前に読んでいた本は
ミステリー文学資料館編『「探偵実話」傑作選』。記憶をたどって書評を復元したい。
 今読んでいる本は中井英夫『月蝕領崩壊』(創元ライブラリ)。先週の土曜日にミステリー文学資料館の「中井英夫展」にも行ってきた。

 この間入手した本は以下のもの。
 『このミステリーがすごい!2004年版』(宝島社)。『2004本格ミステリ・ベスト10』(原書房)。
 山田風太郎『山屋敷秘図』(徳間文庫)。
 『平林初之輔探偵小説選2』(論創社)。

 そして何よりも以下のご恵贈を受けた。
 『江戸川乱歩リファレンスブック3 江戸川乱歩著書目録』(名張市立図書館)。
 『乱歩文献データブック』『江戸川乱歩執筆年譜』の三部作の掉尾を締めくくる力作。装丁から紙面から迫力が伝わってくる本づくり。この本の成立に関われたことは誇りに思う。

 『虚無への供物』本編ではこの日は土曜日。 亜利夫が月光に照らされた氷沼家を始めて訪問する。 迎えたのは旧友である氷沼蒼司。そこの住人は弟の紅司、従弟の藍司、そして叔父の橙二郎くらいであった。一族は各々の名前の色にちなむ一室を持っていた。 「6.鱗光の館」「7.未来の犯人」「8.被害者のリスト」。
 6節の頭に目白駅から氷沼家までの簡単な案内が書かれているが、これを頼りにその近辺をぶらついたこともあった。


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 <読書日記>2003.12.11


[2003.12.12]
 この日、久生は亜利夫を自分のアパート、西荻窪の壁画荘に呼んで前日の氷沼家訪問の様子を根掘り葉掘り聞き出す。同じく6〜8節。
 今まで読み過ごしてきたが、壁画荘とは奇妙な名だ。これは終章で牟礼田敏雄が漏らす「一枚の壮大な壁画」に対応しているのだろう。


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<読書日記>2003.12.12


[2003.12.13]
 
都筑道夫氏の訃報。11月27日に動脈硬化による心臓麻痺で逝去されていたという。享年七十四歳。
 『蜃気楼博士』をほぼリアルタイムで読んだから、結構古くからの読者ということになる。いろんな分野を手がけて傑作も多い人だが、一番のお気に入りは、奇想と活劇と洒落っ気の絶妙なブレンドである『なめくじに聞いてみろ』。
 代表作と言われるものでも中公文庫に収録されたものなどが長い間絶版だったので読み落しは多い。近年になって推理作家協会賞の受賞や相次ぐ復刊などあったのに、今ここでの逝去は残念でならない。
 心からご冥福をお祈りします。


[2003.12.17]
 『虚無への供物』日記。 最初の報告から四、五日後、亜利夫は八田皓吉なる男の風体を、喋り方まで真似て久生に知らせに来る。久生は、紅司とつき合っている与太者の正体を探れと言い残して旅に出る。8節の後半。


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<読書日記>2003.12.13〜17


[2003.12.20]
 『虚無への供物』日記。亜利夫が氷沼家に出入りしだしてから十日近く。蒼司、紅司、藍司と掘りごたつを囲んでのひととき。紅司が熱心にポウについて語り、さらに話をこれから書こうとしている探偵小説の方に持っていく。 「9.井戸の底で」「10.『凶鳥の黒影』前編」。
 ここにはとある遊びがあることが後で明かされる。そして問題なのは紅司の小説『凶鳥の黒影』もしくは『花亦妖輪廻凶鳥』。四つの殺人というのが『虚無への供物』本編と微妙にリンクしている。特に第三の密室について。”小説の日付と現実の日付を一致させていって、ちょうどその第三の事件の起こるべき日に実際起こった事件を、何でもいいから新聞記事そっくりにひねり入れて、しかも密室殺人に仕立てようというんです。”鴻巣玄次殺しこと黒馬荘事件そのまんまではないか。『ドグラ・マグラ』ほどあからさまではないが、『虚無への供物』も自分自身に言及している迷宮小説なのだ。


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<読書日記>2003.12.20


[2003.12.22]
 ”――一九五四年十二月二十二日。水曜。その夜、氷沼家は、九月の洞爺丸以来、ふたたび喪章に飾られた。”
 内側から鍵のかかった風呂場で紅司の死体が発見された。特殊な事情があったことで、すぐに主治医が呼ばれて”急性冠動脈障害による心臓衰弱”という診断書が書かれた。
 その夕、亜利夫は蒼司と待ち合わせたが会い損ねて、夜になって氷沼家を訪れた。蒼司はまだ帰宅しておらず、紅司と藍ちゃんの他に昨日新潟から上京してきた藤木田老も加えて探偵小説談義となった。紅司は風呂に入る間に三人を自分の「赤の部屋」に入れた。藤木田老は「サロメの夜」に変装してアラビクに居合わせたことを明かし、藍ちゃんはラジオで「コマン・プチ・コクリコ(小さなひなげしのように)」を聞いた。
 そのほんの三十分ぐらいの間に紅司は死んだ。素っ裸の背中には十文字の紅いみみず腫れが浮かび上がっていた。
 第一章「11.第一の死者」「12.十字架と毬」。
 まさに「第一の死者」。殺人とも病死ともつかぬ曖昧さに鞭打ちの跡がさらに暗い影を投げかける。


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<読書日記>2003.12.22


[2003.12.24]
 本届く。
 
カーシュ,G『廃墟の歌』(晶文社)。
 ブレイク,N『旅人の首』、テイ,J『美の秘密』、マーシュ,N『死の序曲』、マシスン,T『悪魔とベン・フランクリン』(ハヤカワ・ミステリ)。


[2003.12.26]
 『虚無への供物』日記。日曜の夜。東京に舞い戻った久生は上野駅から亜利夫に電話をかける。死人が出たことを聞かされた久生はそれを紅司だと言い当てる。二人は渋谷の”泉”で落ち合い事件の顛末について話す。10節末から12節まで。


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<読書日記>2003.12.24〜26


[2003.12.27]
 目白の喫茶店”ロバータ”に探偵志願者四人組が集まる。久生と藍ちゃんは顔を合わせたときにお互いに肩を叩きながら嬉しそうに笑う。藍ちゃん、亜利夫に先日、アリスの気違いお茶会の悪戯を仕掛けたことを明かす。紅司の事件を検討した後、藤木田老、十日の余裕をおいて年明け一月六日に推理比べを花々しく執り行なうことを提案する。 「13.『凶鳥の黒影』後編」「14.透明人間の呟き」。
 藤木田老が参考文献としてこの年の六月に出版された
江戸川乱歩『続・幻影城』を取り出す。この犯人は必ず前例のない犯行方法を取ったに違いないとか、この四人の中に犯人がいたり使用人が犯人だったりはヴァン・ダインの二十則やノックスの十戒に反するからまずいとか、どこかずれた会話が続く。


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 <読書日記>2003.12.27


[2003.12.31]
 
ミステリー文学資料館編『「探偵実話」傑作選』了。
 11月中に読了していた本だが、PCクラッシュで書きかけの書評がふっとっびようやく再現しました。環境自体も完全にはまだ復旧していません。

 それはともあれ。個人的には今年はいろんな面で実りがあったいい年でした。読書的にはなかなか進まず大量の積ん読をまた加えてしまいましたが。
 それではみなさん、よいお年を。


[2003.12.31]更新
 <読書日記>2003.12.31


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