ドイル,A.C.『まだらの紐 ドイル傑作選1』

ドイル,A.C.『まだらの紐 ドイル傑作選1』



 創元推理文庫から刊行されているドイル傑作選の一巻目。本巻にはホームズものの戯曲、外典と言われるホームズの名前が明示されない作、ノンシリーズのミステリーなどが収録される。

 まずは戯曲。
 「王冠のダイヤモンド」は、後に「マザリンの宝石」に改作されたもので、こちらの犯人役はセバスチャン・モラン大佐という大物だ。モラン大佐登場作の「空き家の冒険」と本作では使い方が異なるものの両方に蝋人形が効果的な小道具で出ていたのはその辺が関係しているのだろう。
 「まだらの紐」は先に書かれた短編の戯曲化。ホームズの事務所に給仕のビリーがいたり、恐喝王ミルヴァートンが訪れたり、ちょっとした遊びがうれしい。

 次の二編はホームズとワトソンが登場する掌編。
 「競技場バザー」では、ある朝のワトソンの様子をホームズが推理するお馴染みのところ。大学のバザーへの協力要請に応えると決めたことをホームズに見抜かれたワトソンは、そのシーンの描写の原稿自体を寄せることにする。何とも楽しい楽屋落ち。
 「ワトスンの推理法修業」は、ワトソンがホームズの推理を真似てみるがことごとく的を外すというもの。後世のパロディ作家に散々やられたことだが、ご本人もやっていたのね。

 続いて鉄道ものの短編二つ。どちらも世間で評判になった怪事件で、新聞紙上に仮説を発表する素人推理家が名前は明らかにされていないがホームズその人だというもの。
 「消えた臨時列車」では、ルイ・カラタスと名乗る外国人の紳士の要請により仕立てられた臨時列車がリヴァプールからロンドンへ向かう途中で消えてしまった。脱線の形跡はなかったが、機関士の死体だけが発見された。謎に満ちたこの事件の真相は八年後に犯人が別の事件で逮捕されて初めて明らかになった。あまりの大業に度肝を抜かれるとともに、列車の最後のシーンは身の毛がよだつ。
 「時計だらけの男」では、一等客車から出発駅で目撃された三人の人物が消えて、切符を持たない青年の射殺死体が残っていた。死体の身元は結局わからずじまいだったが、彼は六個もの高価な金時計を身につけていた。新聞に高名な犯罪研究家の推理が発表されそれも筋違いとなったが、五年後にその犯罪研究家に宛てられた書簡で真相が判明する。犯罪に至った経過はさほどでもないが、犯罪を隠すに至った心理がちょっと常軌を逸していて面白かった。

 以下の二編は雑誌掲載のまま埋もれていて1980年代に発掘されたもの。
 「田園の恐怖」では、語り手のイギリス人男性はある事情でチロルアルプスの田舎に隠棲していたが、そこで陰惨な殺人事件が連続して起こるようになった。夜に闇にまみれて村人をつるはしで叩き殺す男はなかなかその痕跡を残さない。だが、犯人はある機会に衝撃的にその正体を晒すようになった。 わりとストレートな話だがその分強烈でもあった。
 「ジェレミー伯父の家」では、ベーカー街に住む語り手は友人の誘いでヨークシャーのダンケルスウェートを訪れた。その家ではジェレミー伯父の秘書であるコパーソーンと、インドの族長の血を引く家庭教師のウォレンダー先生が微妙な力関係にあった。 かなりコメントに困る話だ。敢えて言えば
チェスタトンのブラウン神父ものの「*銅鑼の神*」を思い出させられた。

 付録の「シャーロック・ホームズのプロット」は、小説にならなかった未発表の筋立て。初期のものだそうだが、読んでみるとこれなら小説に書かれなくて幸いだったと思った。
 「シャーロック・ホームズの真相」は、ドイルに対するインタビュー。「最後の事件」でホームズを殺した後の”大空位時代”のもの。よく知られたことだが、シャーロック・ホームズによって自分の歴史小説についての業績が顧みられないことに苛立っている。

 当時の挿絵や戯曲には上演時の写真が載っているがこれらが雰囲気があって実によい。



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