デュ・モーリア,D『鳥』

デュ・モーリア,D『鳥』



 新刊で買って積ん読していた本より。デュ・モーリアはフランス系のイギリスの女流作家。以前『レベッカ』を読んだことがあるが、これはヒッチコックの映画と殆ど同じ内容だった。本書はもうひとつヒッチコック映画で有名な「鳥」の原作を含む中短編集。こっちは映画の方は見ていない。

 最初の三編を読んであまりたいしたことないなと思った。どうもありきたり。文章は読ませる作家であるが、当時は斬新なシチュエーションだったにしろもう手垢がつきすぎている。特に「鳥」はパニックものの嚆矢だろうがあまりにも同工異曲が多すぎた。

 と思ったが、それ以降は印象ががらりと変わった。
 「モンテ・ヴェリタ」は解説で千街晶之が”神品”とまで誉めたたえている幻想ミステリの傑作。山を介して友情を結んだ二人の男と、その一方の妻となった女の三人を主要登場人物とする恋愛小説でもある。一人残され年老いた男は語る。彼の親友とその妻に訪れた運命を。モンテ・ヴェリタというヨーロッパではありふれた名前の山の山頂に隠された秘密。垣間見えた異形の世界は瞬く間に消え失せ、冒頭に置かれた結末にあるよう謎のままで残される。

 私が一番気に入ったのは巻末の「動機」。幸福な結婚をし地位にも名誉にも恵まれた女性が突如自殺した。夫との間にもなんら問題はなく、何よりも出産を待ち望んでいたはずなのに。どうしても納得できない夫は私立探偵を雇って彼女の死の真相を探ろうとする。
 探偵は彼女の過去を遡り秘密を探り当てる。殆どありえないような不幸極まる邂逅。何とも悲しい真相に涙する。

 作品の多彩さにも驚かざるを得ない。この一冊の中に叙述トリックを使った作品やSF的手法の作品も混じっている。
 創元推理文庫で今後デュ・モーリアの系統的な復刊が進むそうだが楽しみに待ち望みたい。他の作品もこれだけ質が高いのなら
セイヤーズを継ぐ目玉になっていくかもしれない。


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