名張市立図書館が『乱歩文献データブック』『江戸川乱歩執筆年譜』に続いて送る江戸川乱歩リファレンスブック第三弾。
つくりの丁寧さには定評があるが、またしてもよくぞここまでと思わせてくれる。
こうした文献は勿論調べものに役立つが、通読するだけでも面白い。
最初の方には探偵小説史に残る乱歩の傑作の数々を収めた初刊本のデータが記されていく。『心理試験』『屋根裏の散歩者』『湖畔亭事件』、大正14-15年、どれも春陽堂より。
昭和3年の博文館『陰獣』の初刊には横溝正史による代作三編が収録されている。
昭和4年、渡辺啓助・温兄弟が訳した改造社の世界大衆文学全集『ポー、ホフマン集』も乱歩の翻訳書として載っている。
昭和6年より早くも最初の全集。平凡社版の全集は巻末に乱歩に対する批評集がついていてその内容までわかるのは嬉しい。付録雑誌の<探偵趣味>の目次まである。
作家的地位を確立してからは他の作家の本に序文を寄せている。大倉Y子『踊る影絵』、小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、山本禾太郎『小笛事件』、大阪圭吉『死の快走船』、木々高太郎『柳桜集』、夢野久作『山羊鬚編集長』、横溝正史『真珠郎』。
昭和15年以降は時局のせいでめっきり著書が減る。そして、終戦。
昭和21年、爆発的な出版ラッシュがあったことがわかる。全て旧作ばかりが二十冊以上刊行されている。
戦後の初刊本は随筆・評論、そして少年探偵団シリーズ。
昭和28年以降、ハヤカワポケットミステリに乱歩の手による海外作家の紹介が収録されていくが、かなりの点数に及ぶ。昭和32年からは東京創元社の世界推理小説全集の刊行も始まる。
同じく昭和32年、江戸川乱歩賞の仁木悦子『猫は知っていた』を刊行。以後、毎年受賞作は講談社から刊行される。
合間合間にときどき珍本が入る。黄金仮面のエスペラント語訳、乱歩の編纂による郷土の政治家『川崎克伝』、乱歩がJ・B・ハリスの手を借りてタトル商会から出した自選短編の英訳書、盟友岩田準一の遺稿をまとめた『男色文献書志』、ローマ字教育書のために乱歩自身が「二廃人」に手を入れたという『夢の殺人』。
特に昭和30年以降、聞いたこともない本に多く序文を寄せているが気になる。
亡くなる前の年の昭和39年に刊行された十五冊全部が少年探偵団シリーズだった。
昭和40年代に入るとまた刊行が落ち込む。それでも昭和44年より没後最初の全集が講談社から出る。
昭和47年、講談社の江戸川乱歩シリーズと春陽文庫の江戸川乱歩長編全集の刊行でまた出版点数が上がる。翌年には角川文庫での刊行が始まる。ちょうど異端作家ブームの時期である。
昭和50年代に入ってからはアンソロジーへの収録が多くなる。アンソロジー・ピースとして乱歩の短編は欠かせまい。
またしばらく落ち込む時期があったが、昭和62年、講談社江戸川乱歩推理文庫全65巻が刊行される。私がリアルタイムで買ったのはこれ。このとき長らく乱歩作品を切らすことなかった春陽文庫がカバーを一新したり、創元推理文庫から日本探偵小説全集に収録しなかった作品を単独で刊行するようになったり、ちょっとした乱歩ブームになっていた。
講談社江戸川乱歩推理文庫は平成元年に完結し、特別補刊の『貼雑年譜』も刊行される。写真縮刷版であるが、このとき初めて『貼雑年譜』が世に出た。
生誕百年の平成6年にも河出文庫、ちくま文庫、角川ホラー文庫など各社より刊行。前年からの春陽文庫の連作探偵小説シリーズもあった。
平成10年以降も少年探偵団シリーズは続々と新装版になり、中国・フランス・ロシア語版も出版されている。平成13年にはついに『貼雑年譜』が定価30万円で刊行された。とどまるところを知らない勢いである。
乱歩の出版の歴史はまさしく探偵小説の歴史そのものだった。しかし、そろそろ没後四十年にもなろうとしているのに、今なお子供にも読まれ外国にも訳される作家が他にいるだろうか。乱歩の存在の大きさには驚くしかない。
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