松村喜雄『ふたりの乱歩』

松村喜雄『ふたりの乱歩』


 1992年に死去した著者は、フランス・ミステリ研究家にして評論家、翻訳家。そして江戸川乱歩の甥に当たる。
 突然の死去にあたって遺されたのが、甥の目から見た探偵作家乱歩の評伝『乱歩おじさん』(1992年 晶文社)、そして本書。
 正統的な評論である前者とうって変わって、本書において著者は空想を飛ばす。

 変装の達人である怪盗百面相、遠藤平吉(*1)が宿命的な憎悪の炎を燃やす。乱歩そっくりの顔を持つ男がたくらむ悪事の数々。それに相対するは明智のモデルとなった私立探偵北見小五郎(*2)。謎の美女遠藤ハナが両者に絡み、船上の晩餐会で妖艶な蜥蜴の踊り(*3)を踊る。
 ルパン(*4)のモデルとなった怪盗ギリアノのフレンチ・コネクションを潰すためにガニマール警部も来日。怪人百面相におびやかされた乱歩の甥の小林芳雄少年は仲間と共に少年探偵団(*5)を結成する。

 作者は遠藤平吉の姿を借りてもうひとりの乱歩を描き出す。乱歩の紡いだ幻想は、そして分身遠藤平吉の暗い情熱は、いったいどこに由来したものなのか。
 また小林芳雄少年の大活躍には、著者自身がそのモデルとなったのだぞという自負も感じ取れる。
 そして遂に現代に至っての終幕は宴のあとにも似た寂寥感を残す。

 乱歩ファンには十二分に楽しめる一冊。

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