平井蒼太『おいらん』を探しているうちに同じシリーズでこんな本を見つけてしまった。江戸川乱歩の名作からタイトルとシチュエーションを借りた全編「覗き」に終始する官能小説である。ちゃんと作中で原典に触れているから、これでも乱歩小説には違いない。
時代は昭和三十年くらい。商事会社に勤めるオフィスガールの津川桂子は郷里から身ひとつで出てきて暮らしていたが、人に打ち解けられないのが悩みの種だった。同僚から人の表面ばかりを見ようとせずに裏を見るコツをつかめと助言された彼女は、アパートの住人たちの半面を知ろうと屋根裏の散歩を始める。
……というとんでもな発端。以後は延々とヒロイン桂子が住人たちの性生活を覗き見した光景が克明に記されていく。確かに原典の「散歩者」という言葉からは別に男女の特定はされないからそれが女性であってもいい訳だが、驚いた。さらにこの筋立てからは、原典の実相寺昭雄監督による映画化(1994)がやはり他人の房事をひたすら盗み見る成人指定映画になってしまっていたのを連想させられた。結末にはちょこっとした探偵小説的な仕掛けもあったのがご愛嬌。
なんというか、コメントに困る作品である。
好事家にだけお勧め。