森英俊・野村宏平編『乱歩の選んだベスト・ホラー』

森英俊・野村宏平編『乱歩の選んだベスト・ホラー』



 江戸川乱歩の「怪談入門」(『幻影城』収録)で言及された欧米の怪奇小説をまとめたアンソロジー。なかなか好企画。
 私は怪奇小説には疎いので勉強になった。なにしろ既読は三編だけ。そのうち「猿の手」と「蜘蛛」は中島河太郎編の立風書房の『新青年傑作選』で読んだもの。

 乱歩は怪奇小説を以下のように分類した。

 例えば自作の「人でなしの恋」が四、「鏡地獄」が六に当たる。本書中のどの話が何かはネタばれになることもあるので全ては述べない。

 ジェイコブズ「猿の手」は、古典中の古典。三つの願いを叶えるという猿の手に翻弄される人間たち。恐ろしくも悲しい結末の物語。このストーリーに最初に触れたのは水木しげるの漫画でだったっけ。

 ブラム・ストーカー「猫の復讐」は、仁賀克雄編『猫に関する恐怖小説』(徳間文庫:1984)で読んだ。悪戯で子猫を殺された母猫が無残な復讐を遂げる。

 ベンスン「歩く疫病」はストレートな怪物譚。身持ちが悪い人物をナメクジのような怪物が襲う。それを教会が奨励しているようにも読めるが、異教徒には理解しがたい。乱歩はこの怪物を香山滋の海鰻と比較している。

 コナン・ドイル「樽工場の怪」はアフリカ西海岸での事件。相継いで消える現地人。そしてついに発見された無惨な死体。怪奇な状況を描きながらも、さすがドイル、理に落ちている。

 アンブローズ・ビアス「ふさがれた窓」は西部開拓時代の綺譚。実際にこんなことが起こり得るかもしれないと思わせる怖さがある。

 オリファント「廃屋の霊魂」では、夜ごと泣き叫ぶ霊魂に同情した子供が病気となり、その子の父親が常識に邪魔されながらも真っ向から怪異に挑む。子供の使い方と父親の懊悩の描写がうまい。

 コリンズ「ザント夫人と幽霊」では、亡き夫の幽霊に取り憑かれたように思える未亡人を偶然出会った男が救おうとする。さすがゴシック・ロマンスの名手。恋愛を絡めた焦燥感でぐいぐい引き込む。

 ジョージ・マクドナルド「魔法の鏡」は、プラハの大学生が鏡の中だけに現れる貴婦人に恋をする。分身怪談として有名な「プラーグの大学生」との関連が濃厚とか、と言ってもそちらも読んでいない。

 ダンセイニ「災いを交換する店」はファンタジーの小品。持っている災いを他人の災いと交換できる店で体験したこと。軽妙。

 アルデン「専売特許大統領」では、南米のとある国でどんな暗殺にも堪えられる鋼鉄製の大統領が発明された。人形怪談というよりもホラ話。だが滑稽から生れる恐怖というのは確かに乱歩好み。

 エーヴェルス「蜘蛛」は、乱歩「目羅博士」の原型。この二つを並べたのが本書のミソ。住人が相次いで首吊りするホテルの部屋の怪異。残された手記が異様な熱っぽさを帯びる。
 解説では「蜘蛛」のさらなる元ネタをエルクマン=シャトリアン「見えない眼」(未読)としていたが、私はさらに大元と思われる実在事件の紹介として牧逸馬『世界怪奇実話』中の「ロウモン街の自殺ホテル」を挙げておきたい。

 乱歩つながりだと普段読まないものも読めてしまう。ただ、これに収められていないもっと定番の作品をも読んでいないのは問題か。


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