新保博久・山前譲編著『幻影の蔵』

新保博久・山前譲編著『幻影の蔵』



 編著者の二人の研究家が十年の長きに渡り、江戸川乱歩の土蔵を調査しての蔵書目録を中心にまとめた著作。江戸川乱歩邸と土蔵が遺族から立教大学の所有に移されたのを機にこうして中間報告のような形でまとめられた。
 蔵書目録は探偵小説のみ。これを見ているだけでも興味深くはある。昭和30年代までに国内もの翻訳ものでこんな本が出ていたのかという発見があるし、洋書の方はいっこうにわからないが乱歩の書き込みの拾い読みをするだけでも十分楽しい。

 しかし、やはり圧巻はCD-ROMの写真集である。乱歩邸の訪問者となり編著者二人の案内を受けて乱歩邸と土蔵を探検していく疑似体験が得られる。玄関を開けるとそこに既に本棚があり、そこにも珍しい品が。左手には乱歩が執筆した机のある応接間。右手の奥深くには伝説の土蔵があり、その中身は乱歩以前の勃興期から乱歩の死と同時の終焉まで、探偵小説という一つのジャンルのすべてがある。
 私も以前リアルで訪れることができたが(→こちら)、それをそのまま追体験できた思いがする。まさに土蔵を歩いて、好きな本を全部、とまではいかなくても何冊も手に取って見ることができる。
 まったくわからなかった洋書の棚にも編著者からの注があって、サイン本や乱歩の書き込みなど教えてもらえる。 二階の乱歩の自著を置いたコーナーでは、この類稀な作家の一代の著作を一望できるばかりでなく、時代ごとの出版界の状況まで垣間見られる。 日本の探偵小説を置いた棚では、戦前から昭和30年代まで貴重な本の書影、しかも多くが著者自筆の献辞付きで、目の保養をしながら探偵小説の歴史を振り返ることができる。
 これは実に素晴らしい試みだった。乱歩邸を立教大学が公開するときもこのCD-ROMの方式は考慮してほしいと思う。

 乱歩邸で夢野久作『ドグラ・マグラ』のサイン本を見たときは実に感動を覚えたが、世田谷文学館に横溝正史の蔵書があってそこで同じ本を見つけたときは全然感銘がなかった。やっぱり文学館への移設ではその場所の匂いがなくなる。
 臨場感はやっぱりほしい。かといって貴重な蔵書を不特定多数に無造作にさらすわけにもいかない。そうしたらこういう方式での公開もありかと思う。そうするなら一部の本だけでなく、全部の本の書影を見せてほしいものだが。

 ここに載ってなくとも面白いところはたくさんある。出版社から送られたという自著の山など、貴重な本がダブりであって誰一人も目を通したこともないような状態でそのままになっていた。 心理学犯罪学関連の書架に『ヘレン・ケラー自伝』が混じっており、随筆に三重苦の人はどんな世界を味わっているのかという関心があって読んだとあったのを思い出した。乱歩の実弟平井蒼太の手による豆本もあった。
 そういうものも含めて、あらゆるものが公開される日が一日でも早く来るよう祈ります。


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