江戸川乱歩

江戸川乱歩


 本名平井太郎。乱歩特集は本誌三号でやっていますが、今読み直すと拙なくて恥ずかしいです。

 私が乱歩を読みはじめたのは高校生のときでした。当時はクイーンクリスティ等を読む真当な海外ミステリファンをしていました。高校の図書室に春陽堂版江戸川乱歩全集があり、たまには日本のものも読んでみるかと軽い気持ちで手を出したのがそもそもの始まりでした。

 そのときの衝撃をどう表現したものか。それまで親しんできた海外作品とはまるで別種の、魅惑的で豊穣な世界がそこにありました。推理小説がまだ探偵小説と呼ばれていた頃、それには何かある種の激しさのようなものがありました。読み手に独特の感動を与える。乱歩によって開眼した私は、その感動をさらに探し求め、夢野久作をはじめとする数々の戦前作家に出会いました。古本猟りを愉しみとし、やがて<幻影城>を知り、その出身作家達をも読むようになりました。御陰で海外ミステリには少し疎くなりましたが。

 さて、御大乱歩はと言うと、その創作を読破したのは仙台へ行ってから、そして今、講談社文庫の全集を買いながら未読の随筆評論や少年物をも読んでいます。

 (因みに高校図書室には松本清張全集もありました。こちらを読み始めていたらどうなっていたろうか。)

 では、その恩人乱歩先生の作品について少々語ってみましょう。

 第一位 初期短編読了後の*『陰獣』
 第二位 『孤島の鬼』
 但し両者とも竹中英太郎(御冥福をお祈りします)挿画入りのもの=創元版に限る。前者を選ぶのは大体本格ファンのようです。実際、あの素晴らしきトリックが明かされて、脳髄が空回りしだした瞬間のことは忘れられません。そのとき現実と虚構は境界を失いました。後者も捨て難い。なんといっても諸戸道雄が実に魅力的。あ、あぶない。

 短編第一位 *「人間椅子」
 日常の陰に密む人外境。妖気すらこもる名文によって読者はそこに連れ去られる。呪われたれ、平々凡々たる現実世界。

 番外 『闇に蠢く』
 グルーサムの極致。人には推奨できません。でもなんなんだ、読後のこの充足感は。恐怖、残虐非道、悪趣味−こんな代物も人間には必要不可欠の要素なのかもしれません。

 戦後第一位 『十字路』
 合作を誉めてもらっても嬉しくないとか、自分本来のものではないとか乱歩さんは仰るが面白いものは断固として面白いのだ。都会的でサスペンスフルで情緒に溢れ……。それ自体がケッサクなプラティカル・ジョークである『ペテン師と空気男』と共にお気に入りの作品です。



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