元版は1967年、ハヤカワ・ミステリより。
鬼才エリンの第二短編集。一時期エリンの短編にはまった時期があったが、そのときはこの元版はどうにも手に入れられなかった。こうして文庫化されたことを喜びたい。
ただ短編集ともなると全部が傑作とは言いがたくなる。
また『特別料理』の訳者あとがきで、エリンの作は一語一語が平易ながら一番効果的な単語で組み立てられていて、それを他言語に翻訳するのは極めて難しいとあった。
そういう意味で完全に読み解けるわけでもなく、本書では「七つの大徳」なんて落ちの意味がよくわからなくっている。
それはそれとして、よいものはやはり絶品である。
「ブレッシントン計画」なんて、よくもまあこんなアイデアを思いついたものだ、そしてよくも小説化する気になったものだと感嘆する。あまりにも人が悪すぎる上に、誰もが他人事ではありえない生々しさがある。
「いつまでもねんねえじゃいられない」も凄い。
自宅で不審者に暴行されたヒロインはその犯人を確定するための証言を求められる。温室育ちの新妻には過酷なことだった。だがそれ以上に彼女を追いつめて行く容赦ない筆致。
「不当な疑惑」は、双子が企んだ完全犯罪の帰結。
読者を宙釣りにした結末は見事でもあるし、意地が悪くもある。
名作と言われる西村京太郎『殺しの双曲線』(1971)の中心アイデアの一つはこれが原典だったのか。
一方で「蚤をたずねて」は蚤のサーカスについての法螺話。この人はこんなものも書けるのかと思った。
ラスト二本の有名作「九時から五時までの男」「伜の質問」については何も言わない方がいいだろう。
エリンのベスト短編12編を選んでみた。
『特別料理』より「特別料理」「お先棒かつぎ」「好敵手」「壁をへだてた目撃者」「決断の時」。
本書より「ブレッシントン計画」「いつまでもねんねえじゃいられない」「不当な疑惑」「九時から五時までの男」「伜の質問」。
<EQ>で読んだものより、「内輪」「ゆえ知らぬ暴発」。
「内輪」「ゆえ知らぬ暴発」は晩年の作品だが、極めて衝撃が強かった。単行本未収録作にまだ凄い話があるのではないかと思う。それらもいつかはまとめてもらいたいものだ。