狄(ディー)判事シリーズの長編。『真珠の首飾り』より刊行が後だから後期の作だろうけど、第何長編なのかわからず。
今回のディー判事(この時代の判事は県知事も兼ねる)は友人の同僚知事ルオの邸宅に招かれて滞在中。裕福な商人宅で間借り人が殺された事件を朝飯後に友とともに検分に出かけてその手並みを拝見したりする。ルオ知事に招かれた他の客は高名な博士、宮中出入りの詩人、天衣無縫の禅僧とどれもひとかどの人物ばかり。
その上にルオは侍女を殺したとの容疑で護送中の女流詩人、幽蘭までも客に加えた。ディー判事に幽蘭の無罪を証明させた上で、詩集を出版しようというもくろみがあったのだ。
ところが、幽蘭が贔屓している舞妓が晩餐の最中に殺された。もし幽蘭の仕業なら護送中の容疑者にさらに殺人を重ねさせたルオ知事の責任となり失脚は免れない。
窮地に追い込まれた友のためにディー判事は立つことになる。
女詩人が犯人でないとしたら、犯人は賓客三人の中にいるはずだ。どの一人をとっても怪物的人物であって、ディー判事の打つ手さえも先読みしかねない。
事件の背景を探って行くうちに過去が掘り起こされ全てが結びついていくのは秀逸。その上で捜査は進展してもそのたびごとに手掛かりの糸は途切れて途方にくれてしまう。
三人の容疑者の中から真犯人をあぶり出す手法が論理に基づいていないところは私としては少々不満。
だが、『雷鳴の夜』でもそうだったが、このシリーズに出てくる黒幕的犯人の造形はなかなか凄いものがある。大陸的な風土の元で全てをやりつくした上での絶対凶悪というのはスケールが途方もないが、それの描出にある程度は成功している。
この作品世界でしかできないことをするがゆえに、今読んでも古びない。
これからも楽しみなシリーズである。