本名同じ。子爵。法律家。検事を辞して弁護士になると共に創作を始めるが、貴族院議員に当選後はそれから遠ざかる。三十九才にて早世。
*「彼が殺したか」は処女作にて代表作。ある好青年が姦通相手の人妻とその夫を惨殺した罪で処刑される。だが彼は無実だった。彼が自分の死を賭して虚偽の自白をしたのは何故か。今、遺された手記により意外な真相が明かされる。
その動機の一つは、報われない孤独の恋のためというロマンティックにして悲痛なものでした。自分の純情を弄んだ恋しく憎い女を命懸けの嘘により永遠に我が物としようとしたのでした。
そして二つ目の動機は法律への復讐です。法による正義というものに対する強い疑念。四郎はこのテーマに執拗にこだわり続けました。*「死者の権利」しかり*「彼は誰を殺したか」しかり。そして著者自らが会心の作という*「殺された天一坊」しかり。
これは、大岡政談の不合理性を突き、人が人を裁くことの恐ろしさ、裁く者の人間的苦悩を描いた傑作で純文学的な作品でさえあります。実際、この話の大岡越前守の立場には絶対なりたくはありません。秋霜烈日たるものがあるなあ。
こうした短編群に比べると長編は質が落ちるのですが、それでも*『殺人鬼』はヴァン・ダインの影響を受けた堂々たる本格長編です。(戦前では本格長編は非常に希少であと一つしかありません)。実業家秋山家で起こる陰惨な連続殺人事件ですが、『グリーン家殺人事件』をミスディレクションに使って新味を出しています。また探偵役の藤枝真太郎をファイロ・ヴァンスよりずうっと現実的な人物にしたり、彼の好敵手の林田英三の存在など様々な工夫をしています。しかし、最大の弱点は解説を先に読むと犯人がわかるということで……。
でも、当時としてはかなりの力作だったんですよ。なにしろ大日本雄弁会講談社に踊らされた乱歩先生の手にかかると『グリーン家』が『魔術師』に化けちゃったそういう時代でしたから。それに比すれば、ヴァン・ダインの欠点を研究し尽くしてゆるぎない本格長編を創り上げたことは評価できるし、犯人が落ちた陥穽には膚寒さを覚えました。『殺人鬼』は四郎自身の『博士邸の怪事件』『鉄鎖殺人事件』と比較しても格段の出来映えです。
蛇足ですが、彼の作品の一部にサドマゾや同性愛を扱ったところがあります。四郎は同性愛関係の文献収集では乱歩さんの師匠格だったそうです。