江戸川乱歩こと平井太郎の一人息子である平井隆太郎立教大学名誉教授が父親について語った文章を集めたもの。
行ったことがある人は知っているが、乱歩邸は立教大学の敷地に隣接している。著者はその立教大学で文学部や社会学部の教授を務め、学長までになった。専攻の心理学や新聞学は父乱歩の興味をそのまま引き継いだとも言えるもの。
内容は長年に渡って書かれたものを集めたものなので結構重複するところも多い。
しかし、重複するのは重複するなりに印象深かったことでもあるのでそれなりに意味がある。
押入れの襖を開けたら父乱歩がいたので慌てて閉めたエピソードは、あとから隆夫人に否定されたこともあって白昼夢めいた怪しげな感触がある。
作家になる前の窮乏生活の頃にはよく隆夫人が空っぽのお櫃を持ってデモンストレーションに行ったりしたそうだ。元々が小学校の先生だっただけに夫ともしっかり渡り合う人だったのだろう。
また、家庭人としての乱歩の姿も興味深い。子どものために買ってきた機関車や映写機に自分が夢中になったり、たまご焼きなど子どもっぽい食べ物が大好物であったり。
家族ならではの視点というのもある。
あの『貼雑年譜』は後年に見られることを想定してまとめたものであり、真情を吐露したであろう日記は生前に焼き捨てているそうだ。
さらに、乱歩の妻の平井隆の文章が三編収録され、著者の息子の憲太郎があとがきを執筆し、平井家三代揃い踏みである。
著者の乱歩についての本がもう一冊、東京創元社から刊行予定であり楽しみに待ちたい。