資料室を立ち上げたときにこんな本あったかのかと驚くことが随分あったが、一番びっくりしたのが本書の存在だった。
あの平井蒼太の作品が、文庫で、しかも去年に出ていたとは。全然気がつかなかった。河出文庫の性風俗関係書は高橋鐵くらいは気にしていたが、まさかこんなものまであったとは。
平井蒼太、本名平井通。だれあろう江戸川乱歩こと平井太郎の次弟である。
探偵小説ファンの間では鮎川哲也編の『怪奇探偵小説集』に収録された「嫋指」が知られている。怖いというよりはどちらかというと気色悪い、それでいてエッチな話である。一読すると極めて強い印象を残す。
平井蒼太は性風俗文献の収集及び研究家で十前後の筆名を使い分けたという。また副業として池田満寿夫らの豆本の製作を行った。
平井蒼太については、鮎川哲也による三人兄弟の末弟本堂敏男、母方の従弟岩田豊樹、甥の松村喜雄らへのインタビュー「乱歩の陰に咲いた異端の人・平井蒼太」(『幻の探偵作家を求めて』収録)が詳しい。
で、この本の中身自体は筆者の女郎買い体験を書き綴ったもの。上中下の三部に分かれているうち、上中までは平井蒼太著と伝えられているが確証はない。昭和初期の花街の風俗がユーモラスなタッチで描かれ、性表現は煽情的ながらも資料的にも貴重なものだとのこと。
読んではみたが、探偵ものや幻想ものとは当然ながら縁もゆかりもありはしない。ただ好事家の方々にこんなものが容易く入手できるということをお伝えしておくに留めます。