日本で独自編集の第4短編集。田舎町ノースモントで開業して引退したサム・ホーソーン先生が、若き日に出食わして解決した不可能犯罪の数々。本巻の時代は大恐慌の後から第二次世界大戦へと向かう間。
長年看護婦を務めたエイプリルが結婚退職した後には数人の看護婦を雇ったが続かず。本集巻頭から登場したメリー・ベストがようやく定着するようになる。メリーはサム先生の謎解きにも関心を寄せ、いくつかの事件で先生を助けるようにもなる。
本集の事件も不可思議なものが相変わらずたくさん。
サム先生がジギタリスを与えた患者が急死して、司法解剖で青酸が検出されたために医師免許を剥奪されかかる、サム先生にとって最大の事件、「重体患者の謎」。
親ナチスの男が施錠されたゲートと通電フェンスと番犬で守られた家で殺された「要塞と化した農家の謎」。
悲惨な最期を遂げた富豪の邸宅に泊りにいった孫娘が、伯母の死体とともに今までなかった部屋を目撃した「幻の談話室の謎」。
新聞社社長のパーティーにおいて突然プールから現れた弟が兄から同じように消え去れと挑発されてプールに入って今度は死体として発見された「毒入りプールの謎」。
遊び心もたっぷり。
「消えたセールスマンの謎」は、農家の納屋に入ってそのまま失踪したセールスマンのジェイムズ・フィルビーの事件だが、シャーロック・ホームズの語られなかったジェイムズ・フィルモア氏の事件を踏まえている。
「呪われたティピーの謎」では、ホックのシリーズ・キャラークターの一人である西部探偵ベン・スノウが過去に遭遇した事件の謎を解いてほしいとサム先生を訪ねてくる。
今回の最大の収穫は「革服の男の謎」。
三十年も前にコネチカット州の田舎道を徘徊した革服の男は幽霊のような伝説として残っていた。交通事故を起こして死んだ男が「革服の男を見た」と言い残して、サム先生はその男を探した。見つけた男は過去に実在した革服の男と同じルートを歩いている徒歩旅行者だった。サム先生は半日その男と語らいながら歩いて同じ宿に泊った。ところが次の朝、宿の者はサム先生は一人で泊ったと言い、驚いたサム先生が自分と革服の男を見た者に確認を取るが、誰も革服の男を見たものはいなかった。
作中でも言及されるが、これは例のパリ万博奇譚の変形である。訳のわからない状況のとても不安な感覚、そしてそれが氷解し出すと思いがけない犯罪を引っ張り出すという構成が素晴らしい。
巻末のボーナス短編「フロンティア・ストリート」は、ベン・スノウの登場作である。拳銃のあまりの凄腕に死んだはずのビリー・ザ・キッドの変名ではないかと恐れられながら、ベン・スノウは西部をさすらう。