柄澤齊『ロンド』

柄澤齊『ロンド』


 帯に曰く、「かつて『虚無への供物』『薔薇の名前』もその登場を同時代で迎えた人々がいたように、今、あなたは『ロンド』の登場を目の当たりにする。版画家・柄澤齋が小説家・柄澤齊へと変貌する。」
 ここまで言われたら読まないわけにはいきますまい。

 伝説の絵画「ロンド」にまつわる幻想ミステリ。 「ロンド」とは細密描写で知られた素描画家三ッ桐威による大作。二十年前に三日間だけ公開されて大きな評価を受けたが、作者の事故死とともに写真すら残さず行方知れずになった。暗い森の中で輪になって踊るたくさんの男女が細密に描かれ、それを見るもの誰もが人物の表情が変幻するのを感じるという。 「ロンド」のテーマは死の兆し。
 実際に見たこともない「ロンド」に取り憑かれ美術評論家となった津牧は、学芸員として勤める多薙市立美術館SHIPで「三ッ桐威回顧展」を開催しようとしていた。そんな彼の元に行方不明になっていた「ロンド」が発見されたという情報が届き、それに合わせたかのように「ロンド」の名前を冠した新人の個展の案内が送られてくる。その新人志村徹の個展を見に行った津牧は、会場とされた評論家の家で無残な死体を発見する。その死体はとある名画そっくりに見立てられていて、観客として津牧だけが指定されていたのだ。
 犯人の目的は何か。そして「ロンド」に隠された秘密とは。

 出だしは実に快調。「ロンド」の謎は魅惑的だし、絵画見立て殺人が連続殺人と化して犯人は殺人芸術家ではないかと思わせるあたりから惹きこまれた。
 だが、長すぎる。犯人が割れてからが特に長い。 読みにくくはないからすらすら進むがあまり内容が伴っていないような。 全般的に削って、その代わりに美術的な薀蓄はもっと盛り込んでもいいと思う。
 被害者役など特に嫌な奴として一面的に描かれ過ぎ。 ミステリとしての骨の部分が図式的でつまらなく感じるのもその辺りの平板さが影響していると思う。
 美術的な部分は面白い。絵画が人間に及ぼす魔術的な影響が説得力を持って描かれる。

 佳作以上ではあるのだが、冒頭のような宣伝文句ではどうしても評価が辛くなる。ああいう惹句をつけたくなる気持ちもわからないではないが。


→冒頭
→柄澤齊目次
→読書日記
→表紙