昨年話題になった本をようやく手に取る。角書きには「長編歴史推理小説」とあるが、はて。
江戸川乱歩をモデルにした江戸賀乱歩なる作家と、坂本竜馬の暗殺を結びつけた伝奇SF。歴史ミステリーではないような。
乱歩と切っても切り離せない土蔵に作者は目を付ける。終の棲家となった池袋のものが最も有名だが、それ以前に旺盛な執筆をしていたときには乱歩はいつも土蔵に籠もり、作中にも土蔵の描写が濃かったという。
江戸賀乱歩は土蔵の中で眠ったときに明晰夢と言われる非常にリアルな夢をしばしば見た。その夢で見る場所もやはり土蔵の中で、そこには彼の心を魅了する不思議な人物が暮らしていた。
夢から覚めた乱歩はその人を名探偵明智小五郎のモデルにしたが、どうやらその人物は暗殺される直前の坂本竜馬らしかった。
乱歩と親しい探偵作家では、小酒井不木をモデルとした帝大医学部精神病理学教授の小酒井不忘と、浜尾四郎をモデルとした貴族院議員で青年弁護士の浜尾三郎が登場。特に小酒井は医学的な知識を総動員しこの不可解な謎に挑む。
幕末の竜馬と戦前の乱歩に加えて、現代のミステリ専門出版社の編集長の視点も加わり、時空を超えた謎は重層的に絡みあっていく。
面白かった。着想はとんでもないし、何より勢いがある。
作中で坂本竜馬暗殺の謎に乱歩が挑むわけだが、探偵作家の目での真相解明は説得力があった。だが、話の展開はそれをも遥かに超えてしまう。
乱歩の芸術家的気質と実業家的気質の二重性や、作家としても本格推理を愛好する理知的な面と幻想や残虐に耽溺する猟奇的な面のニ面性については誰もが奇妙に思ったが、それにある回答を与えている。完全なフィクションならこんなのもありかもしれないが、モデルがある場合はどんなもんなんだろう。
明智小五郎と坂本竜馬の類似が詳細に比較されるが、確かに実に似ている。縁もゆかりもないはずなのに不思議だ。
作者はきっと乱歩と竜馬が大好きで、両者をつなぎ合わせるこんな話を夢想したのだろう。
法螺話が好きな人にはお勧め。