桃源社版書下し推理小説全集について

桃源社版書下し推理小説全集について


【2】桃源社版書下し推理小説全集について

 先日、この全集の一冊、木々高太郎『熊笹にかくれて』を手に入れました。昭和35年発行。この全集では私は江戸川乱歩『ペてん師と空気男』香山滋『霊魂は訴える』を読んでいました。乱歩先生の『ペてん師−』は先生最後の傑作。「二銭銅貨」の昔に戻り心行くまで遊んでいます。この初版(つまりこの全集版)を古本市で見たことあるけど目のとび出るほど高いんだよね。さて、『熊笹に−』の箱にある作者のことばを全文引用しますと、

 どうです。なにか意気込みが伝わってくるでしょう。私は高大郎の長編を三作読んでいたけど面白いと思ったことはありません(短編には好きな話がいくつもあります。『探偵小説』8号参照)。でも、この長編には期待できそうだと読み始めたのですが……。

 妻に死なれた語学教授の主人公はバーのマダム、ケニーにひかれた。彼は結婚を申し込むが彼女はどうしても承知しようとしない。彼は彼女の過去の暗がりを探ってケニーの郷里熊本で起こった冤罪事件に深入りしてゆくことになるが……。
 大心池先生も登場します。というか、先生最後の事件のはずです。能笹の中で死刑囚賀毛がつかまる場面に心をひかれつつも、どうもいまいちという印象を拭えませんでしたが、最後の最後で、ちゅど−ん、大バクハツを起こしました。凄かった、凄かった。《悲痛な宿命を負うた人間像》(中島河太郎解説)などどっかへふっとんじまった。芸術がバクハツとは聞いたことはあるが、探偵小説芸術論もバクハツとは知らなんだ(笑)。それにしても大心池先生はケニーの正体に気づいていたのだろうか(爆笑)。

 そう言えば乱歩の『ペてん師−』もバクハツ小説と呼べないことはないし、『霊魂は−』に至っては(作者は気に入ってるらしいが)香山滋ファンを以て任ずる私でさえ一回目のどんでん返しがひどすぎて二回目のどんでん返しでも立ち直れなかった大幻滅バクハツ小説でした。三作中三作全部がバクハツ小説とは大概じゃない。桃源社版書下し推理小説全集は実はバクハツ小説大全集だったのではないだろうか。そのつもりで巻末リストを眺めると、城昌幸『死者の殺人』、島田一男『人間生花』、水谷準『悪魔の応接室』、山田風太郎『脳人』、渡辺啓助『海底結婚式』等いかにも胡散臭げな名前が並んでいる。1〜2千円で古本屋に出てるので、今後この全集は要チェックね。
 なお、日影丈吉『真赤な小犬』、仁木悦子『殺人配線図』もこの全集の出なんですが、これらもや はりバクハツ小説なのでしょうか。



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