韓国のミステリというと、戦前に留学生として日本に滞在していた金来成がいくつか作品を発表し(
「探偵小説家の殺人」(幻影城No.5(1975.06))と評論「探偵小説の本質的要件」(『「探偵」傑作選』)が読める)
、母国に帰国後に探偵作家になったことぐらいしか今まで記憶になかった。
それとは遥かに時代があとの1998年の韓国推理作家協会の短編小説アンソロジーの全訳である。
本格ありサスペンスあり戦争ものありとかなりバラエティーに富んではいる。だが、数編の本格ものも日本での昭和四十年代の本格もののよう。ある作品では犯人が結末で森村誠一の『人間の証明』に言及する。あ、僕『人間の証明』読んでないや。
サスペンス系統の方でも多少工夫を凝らせば本格にもなる状況をつくりながらそのまま投げ出されているものが多い。
韓国でどんな日本人作家が読まれているかはわからないが、昭和五十年代以降の流れが及んでいるようには到底思えない。
いくつか印象に残った話をあげる。
崔鐘「平倉洞の殺人陰謀」では、韓国らしい大家族の家長である社長が毒殺されるなか(かなり怪しげな方法で)、末子の嫁がその犯人探しに挑む。
タイトルからして印象的だが、真相はさほど凝ってもいない。
林紗羅「標的」では、突如現れた女に強引に道連れにされたヒロインが旅先のアメリカで事件に巻き込まれる。そしてその騒動から十年後に女はまたしてもヒロインの元に来る。
文章が(翻訳がか)ぎこちないがそれが却って異様な迫力を生んでいる。これがベスト。
金尚憲「いとしのシンディ・クロフォード」は、隣家の美女に憧れる独身男の一人称のかなりエロ味の強い話だが腰砕け。異色作。
魯元「ブラック・レディ」は、眼球の移植を受けた男が美女の幻を見てそれに惹かれていく。
これはちょっと探偵小説チック。
韓国映画が話題を呼んだりしたのでミステリーもこれからもっと育ってくるだろう。こうした紹介の試みは歓迎したい。