北村薫『北村薫のミステリびっくり箱』

北村薫『北村薫のミステリびっくり箱』




 過去の推理作家協会(探偵作家クラブ)会報をもとに、ホストの北村薫がテーマに因んだゲストを呼んであれこれ再現してみようという企画もの。<野生時代>で不定期連載された。 これが毎回毎回何とも面白い。

 第一回「将棋」では、江戸川乱歩会長と大下宇陀児副会長の棋譜を再現して両雄の棋力と性格を見る。乱歩は将棋の駒に対してまで収集癖があったという分析は笑える。

 第二回「忍者」では、本物の忍者の話を聞くが、「見たと思わせ、言わせるのが忍法」というのが実に説得力があった。

 第三回「嘘発見機」では、被験者となった北方謙三と北村薫にはそれぞれ馳星周、有栖川有栖のつくった意地悪な質問状が浴びせかけられる。

 第四回「手品」の元ネタは、角田喜久雄『奇蹟のボレロ』に出てくる「青い部屋」のマジックが実現可能かというもので、天城一が作図した検証モデルまで出てくる。対談はミステリとマジックの共通点と相違点について。

 第五回「女探偵」の元ネタは、昭和の女探偵佐藤みどりの談話。この方は衆議院議員佐藤ゆかりの母親である。実際の女探偵を迎えての対談では、「探偵は推理してはいけない」という名言が飛び出す。

 第六回「声」は、乱歩邸の土蔵から出たレコードなど。これは付録の秘蔵音源CDに収録されている。

 第七回「映画」では、戦前戦後の日本の探偵映画について。驚愕の片岡千恵蔵版『獄門島』から始まって、全然聞いたこともない映画について語り倒している。

 第八回「落語」では、そもそも本書の企画が考案される元になった乱歩と古今亭志ん生が同席する座談会が収録されるが、乱歩は司会に徹していた。

 付録のCDが凄くてこれを目当てに買ってしまった。
 「びっくり箱殺人事件」は、探偵作家の文士劇のラジオドラマ。横溝正史原作。 江戸川乱歩がカリガリ博士の深山幽谷を演じる。なかなか渋いいい声である。その他、何とも豪華な配役である。会報では殺人鬼役は誰々とあっさりネタをばらしている。この長さではどうしようもないが、事件発生の場面からすぐ解決に移ってしまって伏線も何もあったもんじゃない。お祭りみたいで大らかなものだ。

 「江戸川乱歩インタビュー」は、乱歩が自身について語る。人嫌いで宇野浩二に居留守を使ったこと、「屋根裏の散歩者」「人間椅子」の構想ができるときの話、小酒井不木の思い出、『陰獣』の<新青年>の広告、戦時中の発禁、井上良夫との文通、これからしたい仕事は世界探偵小説史の執筆、等。

 江戸川乱歩歌唱「城ヶ島の雨」は最近の乱歩イベントでよく流れているもの。最初聞いたときのインパクトは大きかったが、それがこうして音声データで入手できるようになったとは。

 甲賀三郎自作朗読「荒野」はこれだけ聞くと何のことだかまるでわからない。 私立探偵木村清の名前が出てきたりする。甲賀三郎の声はちょっときんきんと甲高かった。

 この本は写真と図版が多くて何よりCDもあるので文庫化は難しいと思う。これだけ楽しめたので単行本を買ってよかったと思う。



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