北村薫『詩歌の待ち伏せ』1・2

北村薫『詩歌の待ち伏せ』1・2



 元版は1巻は2002年6月、2巻は2003年10月、文藝春秋より。<オール読物>に2000年2月から2003年1月まで連載されたものを中心にまとめられた。

 
『謎のギャラリー 名作博本館』『謎物語』など、北村薫の本に関する随筆は実に面白い。今回はその対象を主に詩や短歌にしたもの。それらへの出会いは短いだけに小説よりも多くの場があり、それは待ち伏せに遭うのに等しいものがあるという。 金子みすゝ”や俵万智との出会いから始め、数々のフレーズとの初対面の記憶を書き綴っていく。著者の筆致はいつも楽しげである。
 あまりにも内容がぎっしり詰まり印象的なエピソードも多いが、ミステリーに関係するところだけ書き留めておく。

 江戸川乱歩『貼雑年譜』のドイル死去の新聞記事から、そのときドイルの詩集に思いを馳せた西条八十の話になる。
 西条八十はチャンドラーの有名な台詞「さよならを言うのはわずかのあいだ死ぬことだ」の元となったフランスの詩を引用する。 さらには、同じ詩をクリスティが『バグダッドの秘密』で、マクロイが『割れたひづめ』でも引用していると関連付けは広がっていく。

 都筑道夫『猫の舌に釘をうて』で引用された「われはわれとて一筋に恋いわたりたる君なれば、あわれシナラよ」の原詩は『風とともに去りぬ』の題名にもなったという。

 江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズの全巻の内容紹介にたまらない魅力を感じ、特に忘れ難いものとして、『宇宙怪人』の「キミ、フルエテイルネ」を挙げる。

 最終章では、創元ライブラリ版『黒衣の短歌史』に収められた中井英夫と中城ふみ子の往復書簡集の紙面に現れなかった分について語る。中井からの当選通知をふみ子に回送した実父の書き込みや、社用のものから華やかで目を楽しませるものに変わっていった中井英夫からの封筒に着目する。

 初めて教えられたものは勿論、馴染みがあったものでも著者の目の付け所によってまた新たな意味を持ち出す。博覧強記の著者でないとできない仕事である。


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