北村薫『街の灯』

北村薫『街の灯』




 元版は2003年1月、文藝春秋から。<本格ミステリー・マスターズ>の一冊だが、既に雑誌掲載されていた短編を集成した新シリーズの一巻目である。

 時代は昭和七年。ヒロインの花村英子は相模の氏族の出で財閥の社長の娘である。箱入り娘のお嬢さんで、宮様や華族の令嬢が学ぶ女学校へ通う十四歳。
 あるとき彼女の運転手として新しく雇われたのが別宮みつ子という若い女性だった。別宮の颯爽とした姿に英子はサッカレー『虚栄の市』から取ってベッキーさんという愛称をつける。
 籠の鳥だった英子はベッキーさんに連れられてあちこちへ出向くようになり、それとともにふとした疑問を見つけてそれを解くようになる。新聞に載った奇妙な事件、兄と友人の秘密めいたやり取り、そして身近で起こった事件。

 戦前が舞台ということもあってか、探偵小説ファンにも大サービス。第一話は
江戸川乱歩ファンの男が自らを埋めたような状況で変死した事件だし、レギュラーとして出てくる英子の叔父の弓原太郎検事はどう見ても浜尾四郎子爵そのまんまだ。
 ヒロインはお嬢さんではあっても、話が進むごとに他人の覚悟や感情に触れて視野が広がるようになる。特に第三話のある人物の心情の吐露には迫力があった。 第三話のタイトルはチャップリンの無声映画から取ってあるが、それを踏まえた印象的なラストシーンがある。

 時代はこれから戦争に向かっていくわけだが、このシリーズに続きはあるのだろうか。あってほしいとは思う。


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