北村薫『リセット』

北村薫『リセット』



 北村薫直木賞受賞記念読書。この機会に積読していた本を消化した。
 原本は2001年1月新潮社から。『スキップ』『リターン』に続くの時と人の三部作完結編。

 このシリーズは時の不可解な流れに巻き込まれた人々の姿を描くものだが、この話についてはどういう趣向かについて書くこと自体がネタばれになってしまう。

 第一部、ヒロインの水原真澄は戦前に父の転勤に伴って横浜から神戸に転校してくる。そこで芦屋の社長のお嬢さんの田所八千代や工学博士の娘の弥生原優子と友人になる。 ある年の正月に八千代の従兄の結城修一も混じった場で最初の記憶である獅子座の流星群の話をして、修一からその描写があるサッペル『愛の一家』という本を借りる。
 やがて日米開戦。真澄らは高等女学校へと進む。優子からは兄の愛読書と言って
江戸川乱歩『蜘蛛男』を貸されるが持ち物検査で没収されてしまう。 学徒出陣で徴兵された優子の兄は航空隊に配属前に死亡。
 真澄たちはやがて勤労動員で飛行艇を組み立てるようになり、その工場で真澄は修一と再会する。やがて戦況は悪化し各地で空襲が激しくなる。真澄の家が疎開を決めたばかりのときに神戸にも大きな空襲が襲う。

 第二部、主人公の村上和彦は病気で入院してできた暇な時間に自分の子供たちにどうしても伝えたいことを語り残す。それは小学生五年生のときのことで、彼の生まれて初めての真剣で不思議な恋のことだという。その相手は水原真澄という三十くらいの女性で、出版社に勤めて自宅で小学生に本の貸し出しをしていた。

 確かに不思議な恋の物語だった。 良くも悪くも極めてストレート。 一種の寓話として受け取ればいいのだと思う。 自分の命に親や親しく接した人の命が流れているというのは本当だと思う。
 戦前の神戸の上流階級の生活の描写がよく取材して書いたものだろうが実に面白い。 第二部のお父さんの子供のころの生活は作者自身のものらしい。 そして両方に様々な本が溢れる。 真澄が人と人の思いを本がつなぎ伝えることから出版を志したというのは本好きにはうれしい話だ。
 ミステリーファン向けのくすぐりは乱歩の『蜘蛛男』もそうだが、宝塚新温泉の一銭活動の人造犬は海野十三『蝿男』の重大な手がかりである。こんな真面目な話にそんなものを仕掛けるとは流石である。



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