原本は1997年8月新潮社から。『スキップ』に続くの時と人の三部作の第二部。時の流れとは不思議なもので、新刊で買ったこの本もいつの間にか五年ものの積読になっていた。
このシリーズは時の不可解な流れに巻き込まれた人々の姿を描く。
ヒロインの真希は版画家。二十九歳でまだ駆け出し。夏の日のある午後、交通事故に巻き込まれ、気がつくとその一日前に戻ってしまった。そして真希はそれ以来、二十四時間後のその時刻になるとまた一日前に巻き戻されるという日々を延々と送ることになる。
真希のいる世界には他に生き物はいない。命の保障はされてはいるものの、島流しのような監獄のような生活にだんだん彼女は疲れ果てていく。
そんな状況下に置かれたら人はどうなるかの一種の思考実験である。一日一日の変化が記憶にしか残らないという状況がこれほどにも心を殺ぐことなのか。
一日やった成果が何も残せない。日記を書いても消えてしまう。そして真希にとって何よりつらいことは版画をつくって残すことができないことだった。
本書は「君は」という呼びかけで始まる二人称小説である。ミステリーの分野では他に竹本健治『カケスはカケスの森』と法月綸太郎『二の悲劇』くらいしか思いつかない。本書ではその形式が実に効果的に用いられている。真希は自分で自分に問いかけ自答しながらこの事態を乗り越えていこうとする。
そんな日々を三ヵ月も送ったある日、彼女の家の電話が突然鳴った。
それが大きな転機となり、彼女の置かれた状況は大きく変わっていく。
これ以上は未読の人の興を削がないように書くのはとっても難しい。
一旦いい方へ変わり、そしてまた悪い方へと変わる。
悪い方へ変わったときにはヒロインがそう感じたように本気で肝を冷やした。北村薫には『盤上の敵』という”前科”があり、その気になればどんな酷な描写でもできる人なので。
ターンという現象は日常生活のある暗喩だと作者は後書きで語る。
時間というもの人生というものの貴重さを痛切にまで教えてくれる。