海外古典を絞ろうと思っても、ノックスと来ては読まないわけにはいかない。
テーマとなるのはボートによる川くだり。J・K・ジェロームの『ボートの三人男』(1889)というユーモア小説の傑作があり、その伝統に従っている。
犬猿の仲の従兄弟二人がボートでの川くだりに出かけ、片方が陸に上がっている間に何かの事故でボートが大破して沈んだ。しかもボートに残された方の男の死体はどこからも発見されなかった。事件自体はこんな単純なものだが、莫大な遺産相続が絡み英国中を沸かせる大騒動になった。レギュラー探偵である保険会社の調査員マイルズ・ブリードンは依頼を受けて調査に向かうことになる。
単純に見えるだけにつかみどころのない事件。ブリードンもかなりの苦戦を強いられる。手がかりは多い。しかしそれが指し示すところはどうにもちぐはぐ。二つ見つかった被害者の財布や、死体を写したと思われるフィルムは何を意味するのか。
中盤かなり驚くところがあって、そこからの流れが急展開。そう来たか。
この真相はかなり論議が分かれるところではないか。フェアプレイとは言い難いところがある。
だが、ノックス自身が「探偵小説十戒」を提唱して、本格推理小説におけるフェアプレイの概念を広めようとした人だ。なるほど、ただものじゃなかったことがよくわかる。テキスト的トリックを用いなくてこれほど卑怯なことができるとは。感心した。