谺健二『赫い月照』

谺健二『赫い月照』


 この作者のものは初めて。1997年、阪神大震災を扱った『未明の悪夢』で第八回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。『殉霊』『恋愛館事件』と続き、本書が第四長編である。『未明の悪夢』『恋愛館事件』に続くシリーズ第三作のようだ。いきなり三作目を読んでしまったのはよかったのか悪かったのか。
 デビュー作に引き続いて、作者が材を取ったのはやはり神戸で起こった大事件である酒鬼薔薇事件。

 冒頭で語られるのは、シリーズを通してのヒロイン雪御所圭子の中学生のときの猟奇事件。彼女の義理の兄辻悠二が同じ年頃の中学生の女生徒三人を殺して逮捕された。しかも、切り落とされた首が異人館のライオン像の中からありえない速度で白骨化して発見されたり、圭子の目前で腐乱した死体が起き上がるなどというオカルトめいた事象に彩られていた。酒鬼薔薇事件を先取りしたこの事件の後遺症により母親が自殺し天涯孤独となった圭子は、鯉口刑事の支援を受けてやがてダウンジングを専門とする占い師として独立する。兄の事件に解けない謎が残ったことにより、圭子は謎を解くことに魅入られてしまった。鯉口刑事による便宜と私立探偵の有希真一のサポートを受け、ここにチームが結成される。
 一方、阪神大震災でパニック障碍という持病を負うようになった摩山隆介は、職も失い内縁の妻からも疎まれ、心療内科に通うだけの日々。 酒鬼薔薇が跳梁した北須磨団地の近くに住む彼は、疎外感を味わう自分の内面を小説化することにより、猟奇犯罪に走った少年が心に抱え込んだ怪物を理解しようとする。 彼の書き始めた小説では、血飛沫零という名の少年が壊れた世界で殺戮にひた走る。

 長くなったが、ここまでが序章。 震災から再建されたジャズ喫茶「1・17」で避難所の同窓会のような開店祝いが開かれたときに、有希と圭子は摩山に出会い彼の小説を読むことになる。 この後の展開は現実と作中作が混じりあって悪夢のような様相を呈してくる。 摩山の身辺に自分が書いた覚えがない原稿が出現し、その中で血飛沫零は摩山の友人の息子を殺していて、しかも現実にもそれと同じ事件が起きた。摩山は恐慌に駆られる。 血飛沫零が摩山の制御を離れて暴走し始めたのか。やがて摩山の目前に実体を持った血飛沫零が出現する。

 評価にはちょっと困るが、異様な迫力は感じる。
 本作がこの作者の初読なので、いつも壊れた話を書くのかこの話だけが壊れているのかわからない。 出現したシリアル・キラーがミステリーマニアということで、殺戮の現場には密室と暗号が残され、それは本格ものの文法で解ける。全体が壊れているのにそういうところだけ律儀なので却って感触が異様になる。
 酒鬼薔薇事件が主要なテーマだが、海外のシリアル・キラーにも言及され、その流れの中で位置づけられる。その分析はかなり説得力があった。 その上で血飛沫零の正体にはかなり捻りを効かせている。
 ただ、結末はこれでよかったのか疑問。また、辻悠二の使い方もどうにももったいないことになってしまっている。
 狂った話、壊れた話が好きな人にはお勧め。


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