甲賀三郎『琥珀のパイプ』

甲賀三郎『琥珀のパイプ』



 春陽堂の復刻探偵小説集の一冊。元本は大正15(1926)年。先に読んだ小酒井不木『戀愛曲線』と同時に復刻された。
 1923年にデビューした著者の初期短編集。全12編中初読は8編。序文は平林初之輔で、著書の本業、窒素研究所の役人であることを紹介した上で、著者のような多方面の趣味と知識をもっている作者にして初めて空想と現実との両端を極め、詩の世界と科学の世界とを結びつけることができるのであると思う、と語っている。

 冒頭の「悪戯」は、枚数は短いながらも緊迫感がよく出ている。一時の激情による殺人とそれの隠匿。足りない駒を探して死体を掘り出すところの描写がなんとも凄まじい。

 表題作「琥珀のパイプ」は著者の初期代表作。台風襲来の夜、火事を出した家では留守番の一家三人が死んでいた。そこに居合わせた新聞記者は三人の死因が全部違うことを指摘する。短い枚数に物理的トリックや暗号を盛りこみ、二重三重のプロットを組み上げ探偵役の正体にまで趣向を凝らしたこの作品は、「探偵小説」というものの懐かしい原型の一つである。

 「琥珀のパイプ」と同系統とされるのが、「カナリヤの秘密」や「ニッケルの文鎮」のわけだが、収録回数の歴然たる違いでわかるようかなり落ちる。両方とも当時は一般的でないが今は常識に近い知識をネタに使っていたせいもあるが。「ニッケルの文鎮」は二重三重のプロットや探偵役犯人役の趣向も「琥珀のパイプ」と同じ。

 いくつかの作品で私立探偵の木村清や謎の怪盗など、シリーズキャラクターを結構使っている。その割には個性に乏しく見分けがつかないのは残念。後年の獅子内俊次になるとキャラクターが立ってくるのだが。

 拾い物だと思ったのが、「古名刺奇譚」。些細なことで妻と喧嘩して家を飛び出した男が神戸行きの急行に乗込む。そこで知り合った女とともに沼津で降りたが、宿で女は消え財布もなくなった。さらに拾った新聞で自分の乗った汽車が浜松付近で脱線転覆事故を起こして自分が死んだことになっていることを知る。こんな具合に五里霧中のうちにどんどん事件が大きくなっていく。もやもやしたわけのわからなさが焦燥感をも生むが、最終的にはきちんとまとまる。

 面白いものもあるが、つまらないものはどうしようもなく古びている。江戸川乱歩と同時期デビューでお互いにも周りからもライバル視された作家だが、ひとつひとつの作品を後世の目で比較するのは残酷な感じさえする。ただ探偵小説という新興の分野に挑む意気込みや実験精神はあちらこちらから感じ取れる。
 甲賀の代表作は創元推理文庫の『日本探偵小説全集』や国書刊行会の『緑色の犯罪』で読めるので、本書はそれだけで飽き足りない人が読めばよい。


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