本名周六。明治の新聞人。批評家。翻訳家。涙香物といわれる翻案小説で一世を風靡した。その数八十二編。
+『噫無情』+『巌窟王』、ボアゴベ原作+『正史実歴 鉄仮面』などが有名です。探偵小説では、同原作+『死美人』、ベンジスン夫人(架空の作家という説も)原作+『奇中奇談 幽霊塔』など。この辺ぐらいは読んでおかないと涙香について語る資格はないでしょう。読んでいないんだよな、困ったな。旺文社文庫の三冊は絶版だし。でも、涙香物を乱歩さんがさらに翻案した『白髪鬼』と『幽霊塔』なら読みました。特に後者の面白さときたら、乱歩の代表作に充分匹敵します。そしてこれは、”ルパン三世・カリオストロの城”の種本にもなっています。この一事をとってもわかるように涙香物が後世に与えた影響は非常に広範囲なものがあります。
桃源社のSF作品集は読みました。破滅テーマのニューコム原作「暗黒星」、ウエルズ原作「文明奇談 八十万年後の社会」(『タイムマシン』だよ)、グリフィス原作『新説 破天荒』。『破天荒』は、新発明の飛空器星天丸(アスツロノフ)に乗った若夫婦が太陽系を駆け巡る話。月には廃虚があり、火星人は情心を持たぬ怪物で、金星人は天女のような鳥人で……と、実にパターンどおりで嬉しい。
全集には、翻案*「血の文字」、そしてなによりも日本創作探偵小説の嚆矢*「新案の小説 無惨」が収められています。まあ煩いこと言うと須藤南翠+「硝烟剣鋩 殺人犯」とかになるらしいですけれど、そんなもん手に入りませんしね。
さて、*「無惨」に登場する新参刑事の大鞆は、岡っ引上りの老練刑事を相手に大活躍。彼の武器は理学と論理学。三本の髪の毛から怪死事件の真相を突止めます。ドイル風、フリーマン風の好短編……と言いたいところだけど、これが書かれたのはホームズ物の一連の短編が発表される二年も前なんですね。何の手本もなしでこれほどの本格短編が書けるとは只者じゃない。
でも、涙香はこれしか純粋推理小説を書いていません。時代が早過ぎたんでしょうね。日本のドイルになれたかもしれない涙香にボアゴベなんぞの翻案ばかりをさせていたことを乱歩先生が嘆いておられました。
それにしても句点のない文章がこんなに読みにくい者とは思いませんでした。