筑波昭『巣鴨若妻殺し』
筑波昭『巣鴨若妻殺し』
昭和戦前の最難事件
草思社 初版1987.03.16
図書館で借入れ
小林文庫ゲストブックで桜さんに教えていただいた本。ただいま取り寄せ中なのだが、図書館で調べたら書庫にあったので借りてきた。
筑波昭は黒木曜之助の別名義。筑波名義では実在事件のノンフィクションを書き、以下の著作がある。
津山三十人殺し −村の秀才青年はなぜ凶行に及んだか/草思社/1981.09
昭和四十六年、群馬の春 −大久保清の犯罪/草思社/1982.11
アンドロポフ軍団/大陸書房/1983.01
猟奇事件 −明治・大正・昭和を代表する猟奇事件の全貌/大陸書房/1983.01
惨殺! −昭和十三年津山30人殺しの真相/旺文社/1985.10 (『津山三十人殺し』改題文庫化)
巣鴨若妻殺し −昭和戦前の最難事件/草思社/1987.03
このうち『津山三十人殺し』に関しては謎宮会の浅井さんの原稿が詳しい。島田荘司『竜臥亭事件』の元本にもなったという。
黒木名義では『名探偵乱歩氏』を読んでいるが、副題の「実録・千駄ガ谷パス屋殺し」がなんとなく意味不明だった。やはり謎宮会の葉山さんの原稿で疑問氷解したのだが、この人の黒木名義の”実録推理”というのは、実在事件から出発してなるべくかけ離れた地点に着地しようという趣向のものだった。『名探偵乱歩氏』でも、市井の実在事件を元にし、江戸川乱歩を巻き込み、国際陰謀事件まで盛り込んでぶっ飛んでしまっている。
桜さんから本書に平井蒼太のことが載っていると聞いたときまず思ったのは、フィクションなのかノンフィクションなのかということだった。黒木名義実録推理の飛び方からすればフィクションなら信憑性は零に等しい。読んでみたところでは、他の筑波昭名義の作品同様のノンフィクションと受け取っていいらしい。
茨城新聞の記者であった著者は、昭和29年に茨城県鹿島郡で起きた一家九人毒殺事件(後に黒木名義の『実録・県警最大事件』に小説化された)の関連取材のために上京、帝銀事件の平沢貞通を逮捕した警視庁の居木井警部と慶大医学部教授の木々高太郎にインタビューを行う。その際に両者から教えられたのが、津山三十人殺しとこの巣鴨若妻殺しだった。さらに木々高太郎は、乱歩の弟がこの若妻殺しの犯人らしき男に会っていたと述べる。
ここまでがプロローグ。
本文中では事件の詳細が語られる。昭和11年1月15日、銀行の外交員山根一郎の妻とし子が豊島区巣鴨の自宅で絞殺死体で発見された。もの取りの仕業かとも思えたが不審な点もあり、容疑は発見者である夫にかかった。
始めは犯行を否認していた山根だが、やがて全面自供。そしてまた否認と証言は転々とする。
予審は無罪。一審も無罪。だが二審判決は……。
この間の一切が調書や裁判書類を引用して語られていく。
エピローグに至って、著者が再び登場する。
著者は木々高太郎の紹介状(名刺)を持って古書の通信販売をしていた平井蒼太を訪ねたが、殆ど門前払いに近い扱いを受ける。蒼太が異常なまでに警察沙汰を嫌がっていたのは、富岡多恵子『壺中庵異聞』を引用して示される。
だが、著者は気長に顔をつなぎ、昭和38年ついに蒼太から証言を得る。
事件発生当時、蒼太は巣鴨のとげ抜き地蔵近くで浪楓書店という古本屋を開いており、山根一郎もその馴染み客だったというのだ。そして事件発生当日に蒼太は不審な人物を見かけたのだが。
蒼太が乱歩に聞いたこの事件の解釈も示され、また蒼太自身もある想像を語る。乱歩文献でも蒼太文献でもあった意外な一冊。
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