昨年刊行された乱歩小説。この作者のものは初めて。作者は浅草十二階凌雲閣を扱った『十二階の柩』でデビューし、文豪ミステリー『名探偵夏目漱石の事件簿』「潔癖症探偵泉鏡花」シリーズなどがあるらしいが、あまりいい評判は聞かない。
昭和3年、初の新聞連載長編『一寸法師』の出来に自己嫌悪に陥った江戸川乱歩は第一回目の休筆期にあった。
<新青年>編集長横溝正史は、乱歩の関心を再び執筆に向けるために刺激を与えようと、当時勃発した猟奇事件の解明に引っ張り出そうとする。
帝国博物館でメキシコから寄贈されたミイラが公開されようとしたとき”怪盗ゲーリック”を名乗るものからミイラを盗み去るとの予告状が届き、警戒された中でミイラが消えてあとに若い女性の首なし死体が残されていたというのだが……。
なんだこれはと思った。行き当たりばったりで殆ど「推理」小説になっていない。犯人のわけのわからない行動をただ単に変態性のせいにしてしまったりしている。
文章はそこそこよみやすい。だが、鬼警部と新米刑事の掛け合いなどあまりに類型的でチープ感が強い。
いったいどういうつもりで作者はこんなものを書いたのだろうか。乱歩のファンは一応目を通してみようと思うかもしれないが、そういう読者をこの程度の作品で満足させられるとでも本気で思っていたのか。あまりに安易であり不快である。