京極夏彦『百鬼夜行−陰』

京極夏彦『百鬼夜行−陰』



 京極夏彦の妖怪小説の短編集。『姑獲鳥の夏』に始まる長編ミステリの連作中で直接は描かれなかった場面を切り出して短編として再構成したもの。長編のような謎解き及び憑物落としがない、純粋な妖怪小説となっている。

 私のベストは「目目連」。『絡新婦の理』で目潰し魔として跳梁した平野祐吉の発狂のさま。長編を先に読んでいれば既に京極堂に視線の正体を暴かれているので背後の仕掛けがわかる。だが、これだけ読んだ場合は理屈など通るわけがない。妖怪に憑かれた者が精神に異常をきたすとしか思えない。妖怪小説、即ち発狂小説である。

 ただし収録された作品全てが全て傑作とは言えないのが残念。
 「目目連」の平野祐吉、「小袖の手」の杉浦隆夫級の発狂は、長編の大仕掛けに取り込まれたので感銘がやはり違う。「鬼一口」の鈴木敬太郎の発狂も、読み進めるうちに彼が出会った鬼の正体が例の人物だと容易に分かるようになっていて、ぞくぞくする。この辺の作品はとてもよい。
 だが、長編連作に殆ど関与しない人物や状況の場合では発狂も小規模なものにならざるを得ない。こちらの系統はどうしても迫力負けする。これだけ話に落差が大きいと短編集全体としては据わりが悪い。どうしたものか。
 ともあれ、京極ワールドをより深めるための外伝として歓迎したい。



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