京極夏彦の大看板、妖怪シリーズの五年ぶりの新作。
今回の舞台は白樺湖湖畔の”鳥の城”と呼ばれる豪邸。そこの当主、由良昂允は元伯爵家の正統で、儒者であり博物学者である父親に館の中だけで育てられて外界と接触することなく成人した人物である。その元伯爵にはかつての四回の婚礼の直後、花嫁が何者かに殺害されるという事件が二十年以上に渡って繰り返されるという悪因縁があった。
五十歳を越えた伯爵が五度目の婚礼を迎えようとしたときに、花嫁警護のために依頼されたのが探偵榎木津礼次郎である。折悪しく病のために視力を失った榎木津の面倒を見るために小説家関口巽も付き添いで来た。伯爵の人となりに打たれ花嫁薫子の健気さに同情を感じた関口は、何が何でも花嫁を守ろうと決意する。だが、伯爵の書斎には見たこともない黒い巨大な鶴の剥製が置かれ関口の不安をかきたてた。
関口が冒頭で気づいてしまったように真相はそんなに難しいものではない。
どちらかというと短編ネタ。短編でなく長編ならではというのは儒学に対する薀蓄がある。『鉄鼠の檻』で禅に真っ向勝負を挑んだように、儒学・儒教も大変な相手になり得る。ただ、中盤の林羅山についての考察はとても面白かったのだが、事件の解明に生きているようにはあまり思えない。
今回は今までのような京極堂の虫干しシリーズで扱おうにもそこで扱えるようなミステリ的なネタがない。
横溝正史を出しているのだし長野県の湖だし、もっと何かやれなかったのか。
事件の前の晩とその当日しかないので事件暦さえもつくれない。
それでも折角だから再読はしてみるつもりだが。
しかし、なんやかんや言ってもそれでも読ませてしまうのは流石である。このシリーズの一作品と思えば他の作品に比べて見劣りはする。だが、薄々真相に気づきながらも、もしそうならどうやって締めくくるんだろうと思って読んでいるとこういう風に終わらさせられる。ミステリ的な驚きは少ないが、それでも人間という存在の不憫さ、意思の疎通の齟齬による悲劇に痛み悲しみながらも感動させられてしまう。
ただ、こういうのもあってもいいけど、京極夏彦のこのシリーズには重層的な謎とその解体を何よりも望むので、次回作はそういうのを期待。
洞爺丸沈没まであと一年二ヵ月。