京極夏彦『ルー=ガルー』

京極夏彦『ルー=ガルー』

 忌避すべき狼

 久々に読む京極夏彦は帯に「近未来少女武侠小説」とある。 この作品の未来社会の構成は読者からアイディアを募ったものだという。 さらに表紙絵と厚さにたじろぎはしたが、読み進めるとあいも変らぬ京極ワールド。

 2030年ごろの近未来。人々はモニター越しに世界とアクセスするようになった。学校も廃止されたが、社会性を養うという目的のもとに週一回登校してのコミュニケーション研修が行われる。
 その十四歳のクラスで知り合った引っ込みがちの牧野葉月と変わり者を自称する神埜歩未は友達ともつかぬ間柄だったが、少女たちを狙う連続殺人事件を切っ掛けに新しい仲間を持つようになる。
 同じクラスの都築美緒は天才ともいえる才能の持ち主でモニターによる監視もごまかす技まで持っていた。美緒の幼なじみの麗猫は旧歓楽街に棲む未登録住民で拳法の使い手。
 彼女らは暴漢に襲われたクラスの構成員の矢部祐子と関わる。祐子は襲われた際に端末を破損して行方不明ということになってしまったが、未登録住民の麗猫の住処で過ごしたこともあり、大人に保護を申し出るには問題があった。
 一方、クラスのカウンセラー不破静子は、刑事の橡から連続殺人事件について気になることを聞いていた。

 読む前は京極に少女が書けるのかとも思ったが、考えてみれば既に『絡新婦の理』の聖ベルナール女学院のくだりでやっている。
 少女たちの敵の強大さが見え始めるのは中盤以降。頼るものなくいやおうなしに彼女たちだけで戦わなくてはならなくなる。 でも、少女たちは正義のために戦ったりはしない。子供は子供なりにもっと現実的にもっと狡猾に。
 見事に演出されたクライマックス。各々が見せ場をもらっての活躍。そして人も大勢死ぬ。戦いの末に訪れるのは興奮と勝利感とやりきれなさと虚しさと、相反した感情の渦。
 ただこの作家にしては敵方についてなどどうも安易なところが散見されるのが残念。

 この話は『百鬼夜行−陰』の「鬼一口」とつながっているようだ。だが世界は連続していてもここには黒衣の憑物落しはいない。事件が終了して日常が回復されてもどうにも腑に落ちないものが残る。
 何があっても世界は終わりもしないし変わりもしない。現実は簡単なものではないが、一方では単純なものでもある。作者の突き放し方はある意味とても残酷でまた愛情に満ちている。



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