第130回直木賞受賞作。『巷説百物語』、『続巷説百物語』に続くシリーズ三作目。
ファンとしては直木賞の受賞はうれしい。だが、本書から読み出すとシリーズを通しての仕掛けや他の作品との関連がわからないので、京極初心者向けではないと思う。
前二作は江戸時代が舞台だったが、今回は明治時代になっている。
旧幕時代は武士だったが今は巡査、貿易会社社員、道場主、洋行帰りの遊民という若者四人が古文書にある珍談奇談について議論しあう。いつも収拾がつかなくなくなったとき、かつての北林藩に縁を持ったご隠居に知恵を借りに行く。そのご隠居は一白翁と名乗り、若い頃に諸国の綺譚を収集して回った人物だったが、実は考物の百介の晩年の姿だった。
百介は若者たちの質問に答えてかつて小股潜りの又市やその一党とともにした事件を語っていく。不思議な事件とその真相を伝えることにより、巡査が抱えた奇妙な事件まで解決される。これが相継ぐうちに不思議巡査の名は高まり、彼らの元にはなおさら不思議な事件が持ち込まれてくる。
語られた綺譚は、若き日の百介が男鹿半島の先の霧に隠された孤島に迷い込む「赤えいの魚」、
なんと御行の又市が代官に斬られてその首が炎の怪と化す「天火」、
放蕩息子が一家の守り塚に七十年も前に封印されていた蛇にかみ殺される「手負蛇」、
神隠しにあった娘が子連れで発見されたが娘は子供の父親を人間業ではない怪力の持ち主だと言い張る「山男」など。
過去の事件と作中の現在の事件は最初は無縁だったが、後の方では二重仕掛けにもなってきている。
最後の二編は作者のもう一つの大看板、京極堂シリーズの前日談になっていることがわかって吃驚した。
今回は昔話の語りという形式なので又市たち闇の者の影はちょっと薄い。だが、前巻の終わり方が終わり方でまさか再登場があるとは思わなかったので儲けものとも言える。
まだまだシリーズは続き、江戸城に巣食う悪を退治する話もいつかは読めると期待していいのだろうか。
シリーズものとしては前代未聞の構成であるが、それを自在に使いこなす作者の力量はさすがである。