『巷説百物語』シリーズ第四作。一、二作目が江戸時代、三作目は明治時代と時代が下がったが、本作は一作目よりも時代的には前、小股潜りの又市がまだ駆け出しの頃の話である。
上方でしくじった小股潜りの又市は相棒の林蔵とともに江戸に出てきた。又市はまだ御行ではなく双六売りを表の仕事としていたが、彼が惚れていた女が人を殺めてしまう。
それをきっかけに銭で埋まらぬ損を引き受ける裏の損料屋「ゑんま屋」の一党と関りを持つことになる。
このシリーズは京極夏彦においては京極堂シリーズと並ぶ二枚看板であり、最近の京極堂シリーズが低調なのに比べてこちらは質が全然落ちていない。あるいはそんなことを思わせないくらい作者の書き振りが老練になっているとも言える。
「ゑんま屋」が引き受けた事件の解決のために又市が毎回仕掛けを考案することになるのだがそれが実に苦しい。持ち出された妖怪や怪事もかなり無理やりのこじつけである。だが、それだからこそ駆け出しで青い青いと言われる又市が精根傾けたものとしてのリアリティーがある。
正編続編の洗練された仕掛けの対極であるが、それを生かす仕組みが全然違うわけである。
後半になると後にシリーズに関る人物がぽつぽつと顔を出すようになる。
そして最後の二編は稲荷坂の祇右衛門との苦しい戦いとなる。祇右衛門は江戸の最下層の非人たちを欲しいままに操り、何度殺されても甦って来る怪物である。
又市の思いを他所に累々たる屍の山が築かれ、それを収めるためにもさらにその上にある犠牲を払うことを余儀なくされる。
江戸に残り御行の姿となった又市の胸中はいかがなものだったのか。
そして最終決着は十年後の続編の「狐者異」に持ち越される。
実に面白かった。間を埋める話はまだまだあると思うので、シリーズの今後に期待したい。