京極夏彦の妖怪シリーズの三年ぶりの新作。
画家の西田新造は、自分の絵のモデルの宇津木実奈に昼も夜もつきまとう不審な男を何とかしたくて同窓の石井警部に相談する。だが、事件が起こらないと警察では何もできないと聞いて、殺すしかないのかと思う。
探偵助手の益田は、榎木津探偵の親戚の今出川から調査を依頼される。榎木津の縁談の相手が三人も続けて向こうから突如破談の申し入れをしてきて、しかもそのうち一人の妹が大磯で毒死したという。普通の縁談の調査と同じにしようと割り切った益田は、榎木津の旧知の古本屋京極堂と作家関口に榎木津の過去の女性関係を尋ねる。
平塚の酒屋の住み込みの江藤徹也は、思いを寄せていた真壁恵という女性がアパートの自室で死んでいるのを発見する。警察の調べで偽名とわかり、被害者の身元は不明となった。さらに青酸性の毒物を用いた死因から江戸川の商社社員と大磯の女学生に続く連続殺人事件とみなされた。だが、江藤は恵の事件についてあることに気づいていた。
大鷹篤志は、前作白樺湖の事件で衝撃を受けて警官を辞めて放浪の末に大磯にたどり着いた。そこで真壁恵という女性と知り合い、彼女の友人の女性の警護を頼まれる。昼も夜も張り付いていたにもかかわらず、緊張が緩んだ隙に彼女は殺されてしまった。
恵は自分が頼んだ仕事のために大鷹が警察に捕まっては申し訳ないと、大鷹を人気のない保養所に移す。そこにはもう一人やくざのような男がやはり身を隠していた。
青木刑事は本庁から配置換えになって、江戸川の商社社員の澤井健一の殺人事件を調査していた。捜査方針に不審なものを感じた青木に木場は助言する。この事件の肝は特殊な青酸化合物が使われたことではないかと。さらに青木は京極堂のもとを尋ねて意外な情報を得る。
なんだか小粒になってしまったという印象。
やたら分厚いが、登場人物たちの頭の中を綿密に記しているから長くなったので中身があってではない。
ヴァン・ダインの後期の六冊のように、京極堂シリーズもこれが標準になるのだろうか。前半六冊と比べさえしなければ、これはこれでそんなに悪くはない。
ミステリー的な観点からいうと、探偵小説の一分野としてかつて毒殺ものというのがあったが、現在は途絶している。密室ものや暗号ものは今でも盛んなのにも関わらず、毒殺ものだけそうなってしまったが、個人的には最後の毒殺ミステリーは横溝正史「百日紅の下にて」ではないかと思っている。
京極作品で毒殺ものを扱おうとしてこういう形式になったのではないだろうか。例の陸軍第十二研究所が出所という毒薬「雫」が触媒となっての殺人の波及が描かれる。
関係者がかなりばたばた死んでいき、憑き物落しをされるべき者が殆ど残っていないので、京極堂の出番も少ない。
一方の榎木津は今回は微妙な役どころであるが、最後をうまく締めてくれた。
その他の一党は、関口も青木も益田もみな自分のベストを尽くして頑張っている。石井や山下といった過去の事件で痛い目にあった警察幹部もすっかり灰汁が抜けて健気にやっている。この辺には好感が持てた。
その一方で大鷹や江藤など自ら頭に鉛が詰まっていると思う者たちの心理描写が長々と続きいらいらする。書き方自体はうまいとは思うのだが。