これが去年出たときは結構話題になったものだ。古典番外地と言われて久しいハヤカワからいきなり出版された本だったから。私も即座に買ったが、考えてみたらベストセレクション(重版)以外で新刊でポケミスを買うのは初めての体験だった。
フィリップ・マクドナルドは『鑢』『Xに対する逮捕状』『エイドリアン・メッセンジャーのリスト』で既にお馴染み。本書はそれらの探偵役ゲスリン大佐ものの長編。
休暇中のゲスリン大佐の元に届いた分厚い書類。それはロンドン警視庁犯罪捜査部副総監からのものだった。ゲスリン不在時に高級住宅地で起きた殺人事件が容疑者も限られているのにどうにも解決できない。同封した書類に目を通して力を貸してほしいというもの。
裁判記録だけなのにこれが案外と読みやすい。生の証言だけで次第に事件が明確になっていく。
司法関係者がお手上げになったのは、
犯人は屋敷内の者だということは確実なのに被害者に対して動機を持つものが多すぎて犯人が特定できないこと。
ゲスリンの推理は裁判記録から矛盾点を抽出して犯人を浮かび上がらせた。
人間心理の内奥に迫るだなんだと言ったらちょっと持ち上げ過ぎだが、
こういう趣向を持ち出してうまいことまとめたものだと思う。解決編までも全てが書簡という安楽椅子探偵ものでもある。
今年もいきなりフ(ュ)ーリックが出たりしたので、ハヤカワも今後は古典に力を入れてくれると嬉しいのだが。