論創ミステリ叢書の松本泰の二冊目。実につまらない。
一巻目が主宰雑誌発表の創作で、二巻目はそれ以外の媒体に発表された創作と評論・随筆編。
書誌的な意味での収穫は「詐偽師」。江戸川乱歩のデビュー作「二銭銅貨」が発表された<新青年>に山下利三郎「頭の悪い男」、保篠龍緒「山又山」ともに発表された作である。しかし、この出来は何だ。山下利三郎は当時としては有望な新人。保篠龍緒はルパンなどで人気の翻訳家。松本泰は実績ある先輩作家という位置なのだが、このつまらなさはどうしようもない。山下の「頭の悪い男」も随分と頭の悪い話なのだが、「詐偽師」はある意味もっとひどい。上海の質屋におけるちょっとした出来事なのだが、これでは探偵小説にはなっていない。
松本泰の小説は、犯罪や謎や捜査は行き当たりばったりだし、ストーリーはたいした起伏があるわけでもない。いちおう味わえるのは異国描写くらい。
今回は直接外国が舞台のものよりも、日本で起きた事件に異国での過去の影が差すものが多いので、ドイル的だとも無理やり言えばいえないこともない。
本書で既読は二編あったが、確かに読んでいるはずなのにあまりにも印象が薄い。盛り上がりも何もなくて平板だからだろう。
何だか一巻目を読んだときよりも辛辣になってしまったなあ。
ちょっと面白かったのは「嗣子」の結末。探偵小説的なものではないが、厳かな爽やかさを感じた。それから中野の文化村の描写が作中に出てくる。
随筆編では牧逸馬の追悼文が興味深かった。無名の彼を見出して、売れていくさまを見守り、あまりにも突然の死を静かに悼んでいる。