マケイブ,C『編集室の床に落ちた顔』

マケイブ,C『編集室の床に落ちた顔』



 いろいろ前情報もありおそるおそる読み進めては見たものの、なるほど、こういう話だったのか。
 作者は元々はドイツ人だが、ナチスの政権奪取とともにイギリスに亡命。映画会社で働きながら、本書を英語で執筆したという。
 おやっと思わせるタイトルは原題の直訳で、映画業界の用語。本編から完全にカットされてしまった男優あるいは女優を意味する。映画が完成したあとで何らかの理由によりフィルムから鋏で切り離されてしまった者たちのこと。

 映画会社の編集主任キャメロン・マケイブは、編集中の新作フィルムから新人女優エステラの全ての出番をカットせよとの命を受ける。いったい何故といぶかしむマケイブ。ところがその翌朝、編集室の床に血を流して横たわる彼女の死体が発見された。
 マケイブは捜査に当たるスコットランド・ヤードのスミス警部と丁々発矢のやり取りを繰り広げて行く。はたして事件は自殺か、殺人か。殺人なら犯人は一体誰なのか。

 これ以上は粗筋も書けない。
 これにある程度近いものといったら、一つの事件に六通りの解決を示したバークリー『毒入りチョコレート事件』が挙げられる。
 だが、本書も多重解決型であるが、大きな違いがある。そこを許せるか許せないかが評価の差になるだろう。私なら、これくらいは許してあげてもいい。SR方式なら7点。
 だが、こういうのがたまにあってもいいが、みんながみんなこういうふうになってしまっても困る。それこそ推理小説の自殺であり、あとには廃墟しか残らない。
 これが許せて清涼院流水の某作は許せないというのはなかなか微妙なところであるが。

 世界探偵小説全集の中でJ・T・ロジャーズ『赤い右手』と並ぶ問題作、とのことだが、『赤い右手』の方が遥かに面白い。


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