光原百合の短編集三冊目。
表題作は第55回日本推理作家協会賞短編部門の受賞作品。
今回は前二作のような同一主人公の連作ではないが、花をモチーフとした連作とのこと。それぞれ何の花が扱われているかはネタバレの危険性もあるので、題名の横に反転して記した。
「十八の夏」では、受験浪人の信也は自宅近くの川原で見かけたスケッチをしている女性に惹かれていく。あることを切っ掛けとして知り合いになり、信也は彼女紅美子の住んでいるおんぼろアパートに勉強部屋を借りることにする。紅美子は寝に帰るだけという部屋に朝顔ばかり四鉢も置き、どれが一番先に咲くか見るために育てていると言っていたが。
浪人生の淡々とした日常の描写を読んでいったら、結末でかなり驚かされた。読み返すときっちり伏線も引いてある。年上の女性を思う少年の気持ちもよく書かれている。
なるほど、協会賞受賞作だけのことはある。
「ささやかな奇跡」と「兄貴の純情」はネタが丸わかりだったのでコメントが書きづらい。
前者は子持ちの男が再婚したいと思う相手に初めて子供を引き合わせる日のこと。
後者はとにかく無茶苦茶な役者志望の兄が巻き起こした騒動。
ネタオンリーの話ではないから小説として十分楽しめはするが。
「イノセント・デイズ」では、塾講師の浩介のもとに久々に元教え子の史香が尋ねてくる。史香は父を失い、母とその再婚相手をいっぺんに事故で失い、さらにまた最近になって血はつながらなくても頼りにしていた兄まで失ったという。だが、次第に明らかになっていく事実は事件の別の様相を見せる。
史香の投げ込まれた絶望はあまりにも辛い。
主人公は絶句しそうになりながらもそんな彼女に懸命に寄り添おうとする。
作者の暖かい眼差しはこんな過酷な話においても健在である。
ところでこの話はM・A・デフォード「*夾竹桃*」(R・ボンド編『毒薬ミステリ傑作選』創元推理文庫絶版)の本歌取りなのだろうか。
受賞が励みになって刊行ペースが上がってくれればうれしいのだが。
[2003.02.18]
→冒頭
→光原百合目次
→読書日記
→表紙