鮎川哲也編『鯉沼家の悲劇』

鮎川哲也編『鯉沼家の悲劇』



 積ん読になっていたのを読んでみる。

 宮野叢子は木々高太郎に師事した文学派の女流作家。戦前に<シュピオ>の同人として作品を発表していたが、本格的な活躍は戦後から。今でも読める作品は本書の他に短編が数本(→作品目録)。
 『鯉沼家の悲劇』は地方の旧家が舞台。格式だけはあるが今ではすっかり没落した家に残ったのは婚期を逸した女だけの三姉妹。いったんは駆け落ちでその家を逃げ出した異母妹が美しい子供を連れ、そして精神を病んで舞い戻ってきたときに悲劇の最終章が始まった。鯉沼の血を引く若い男の目で連続殺人、そして一族の崩壊が語られる。
 旧家の悲劇と言う題材では横溝正史の同じ時期の作品と共通する。 トリックや謎解きは弱いけど、それが眼目の作品ではない。三姉妹の描写はどこかたがが外れながらも情緒を感じさせる。 鯉沼家の崩壊は美しい田園風景の中の日本的なものが戦後の価値観に晒されて壊れていくのに対応する。 作者の自伝的要素も強いらしく郷愁と愛惜の念が胸を打つ。

 「病院横町の首縊りの家」は、横溝正史の『病院坂の首縊りの家』の原型の短編だが、1954年<宝石>に序編を掲載しただけで体調を崩して中絶。困り果てた編集部は、その続編の競作を当時の中堅作家二人に依頼した。
 続編の第一コースを受け持ったのが岡田鯱彦。本職が国文学の教授。代表作は王朝ミステリ『薫大将と匂の宮』だが、『源氏物語』をきちんと読んでからと思って未読。その他の作品は本格ものや幻想ものなど(→作品目録)。第二コースは岡村雄輔。最近続いて読んでいるが、技術系出身で本格ものも叙情ものもこなせる人(→作品目録)。
 正史の序編はまだほんの出だし。金田一耕助が作者に語ったのは一枚の婚礼写真の怪。この写真が撮影されたとき、花嫁は既に死人だったと言うのだ。
 岡田鯱彦は金田一の岡山の相棒磯川警部を東京に転勤したことにして捜査を担当させる。一方、岡村雄輔は彼の熊座警部補を駆り出して金田一と共演させる。両者ともに手掛かりまで書き込んで謎解きを成立させるが、微妙に重なりあったり鏡に映したように正反対になったりして興味深い。なかなか面白い試みであった。
 なお、実は私は『病院坂の首縊りの家』がまだ未読。2002年の正史生誕百年にどこかで全集を出してもらえないものか。

 最後に狩久の密室短編二本。狩久についてはこちらを参照ください。
 「見えない足跡」は小品ながら探偵役が瀬折研吉と風呂出亜久子のコンビなので嬉しい。
 「共犯者」は三角関係のもつれの結果と見られる密室を関係者の心理から解きほぐす。物理的な道具立ては単純過ぎるくらい単純なのに謎は深い。探偵小説的な稚気を持ち、なおかつ官能的な描写も得意とした作者の本領を覗わされる好編。


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