二十四歳で肺病のために夭折した画家、村山槐多。
村山槐多といったら、探偵小説ファンには何と言っても「悪魔の舌」が強烈な印象を残す。
カニバリニズムを扱ってどぎつい上に、数々のアンソロジーにこればかりが収録され続けてきた(→作品目録)。
乱歩ファンには、乱歩がこの作品を愛好したと同時に、槐多も乱歩好みの少年愛趣味の持ち主で、そうした画題の「二少年図」を乱歩が入手して書斎に飾っていたことでも知られる。その絵が本書の口絵となり、乱歩の賛も冒頭に収録されている。
あともう一つ、村山槐多は画家としては小杉未醒の弟子であるが、小杉は押川春浪の天狗倶楽部人脈の一員であり、横田順彌の明治SFシリーズの一編『時の幻影館』第六話「空」に槐多も登場している。
こうした断片はいろいろあるが、私にしても「悪魔の舌」以外の槐多の作品を実際に読むのはこれが初めてであった。
本書の収録作は上記した通りだが、収録の順番は小説・童話・散文詩・戯曲と、詩が交互に挟まる形で構成される。
「悪魔の舌」と同系統の怪奇小説としては、「魔童子伝」「魔猿伝」「殺人行者」があるが、どれも完成度の点では及ばない。
槐多が今、幻想文学の立場から評価されうるのはむしろ「鉄の童子」や「酒顛童子」といった未完の小説・戯曲からのようだ。特に前者の山を巡る記述は神話的な壮大なイメージを喚起させる。
未完成であるゆえに却って評価される夭逝神話というのはあるかもしれないが。
巻末の中編「音の連続と無窮変奏(槐多カプリチオ)」は、津原泰水による書き下ろし。槐多の人生そのものに材を取り、概ねは評伝仕立て。
画家としての本業の位置づけなどがこれできちんとわかる。
いくつかの不明なところは根拠を示した仮説で埋める。
その上で槐多が見た幻という設定で超自然現象を引き起こしたり、
槐多自身のものと似た感触の怪奇小説「赤仮面伝」まで挟んである。実に至れり尽くせりである。
以前、『村山槐多全集』を迷って買い損ねた者としては、こうして手軽に読めるようになったこと自体が嬉しい。
絵や詩の方からの熱狂的なファンは元から多かったらしいが、今後は本書が探偵小説・幻想文学読者からの手頃なアプローチの手段となるだろう。