この本はしばらく出たのに気がつかず入手が遅れ、やっと手に入れたら創元ライブラリ版全集の『黒衣の短歌史』が出ると聞いて後回しにしてしまって、発刊後半年もたって読むことになった。本書中の『現代短歌論』以下はほとんど前記『黒衣の短歌史』にも収録されており、
「『われに五月を』に寄せて」は創元ライブラリ版『香りの時間』に収録されている。
全集未収録の本書の第一部は福島泰樹編集・発行の「月光」9号「特集中井英夫」(1992.09.01)が初出で、「月光」を持っていない人は手に入れる価値がある。
「冷たい炎」は近況報告。羽根木から小金井への転居のこと。新しい助手の本多正一のこと。小説がさっぱり書けないこと。市谷の自衛隊本部や三井寺秘宝展の黄不動を見に行ったこと。C型肝炎と肝硬変の診断を受けたことなど。
「黒鳥の歌」は福島泰樹による長文インタビュー。久々の再読になるが、以前読んだときは見逃していたような小さな情報が嬉しい。
中井が俵万智をわりと好意的に評価しているらしかったこと。
「朝日歌壇」の選者をやりたがっていたこと。
短歌にしてもミステリーにしても新しい人を応援したいという気持ちを生涯持ち続けていたこと。
新宿の飲み屋の話でゴールデン街の「まえだ」の話題が出ていたが、ここの女主人前田孝子の供養の観音像は福島が住職を務める法昌寺の境内に中井の供養塔と、たこ八郎のたこ地蔵とともに三つ並んで立っている。
次のくだりにはやっぱり涙してしまう。