大倉崇裕『三人目の幽霊』

大倉崇裕『三人目の幽霊』



 1997年の第4回創元推理短編賞佳作の「三人目の幽霊」と同じ設定の話をまとめた連作短編集。 主人公は雑誌<季刊落語>の駆け出し編集部員の間宮緑。念願の出版社に入社できたものの全く興味がない落語雑誌に配属されて即座に辞表を出そうかと悩んだものの思い直して現在落語の勉強中。 探偵役はその上司、編集長の牧大路。この道三十年のベテランで落語に対する造詣はもちろん深く、それだけに留まらない鋭い洞察力を持つ人物。

 「三人目の幽霊」では、長年反目していた落語界の二大勢力が和解をしようとしているときにそれを妨害するかのようなトラブルが続出。「真景累ヶ淵」の高座で出現した三人目の幽霊は何者か。
 「不機嫌なソムリエ」では、緑の親友であるソムリエの恭子の上司が突如失踪する。話を聞いた牧編集長はそのマスターソムリエが「厩火事」のさる旦那に似ているのではないかと危惧するが。
 「三鶯荘奇談」では、幽霊話を得意とする噺家の奥さんが事故にあって入院し当人も地方巡業のというときに、緑がその子の面倒を見ることになった。緑と子供が二人きりで過ごす夜の山荘を襲う恐怖の事件とは。
 「崩壊する喫茶店」では、祖母が真っ白の紙を思い詰めたように凝視するのを緑が心配する。ちょうどその頃近所の喫茶店が突然の改装とともに廃墟と化そうとしていた。
 「患う時計」では、とある大師匠と同輩の元に出されていたその実の息子の競演に陰湿な邪魔が入る。師匠の跡目争いが関係しているのか。

 この作者は基本的にはうまいと思う。「三人目の幽霊」の下げなど絶品だし、「三鶯荘奇談」の破格も悪くはない。だが、従来の創元系新人日常の謎流派の系統からの新しさをあまり感じなかった。 折角落語界という特異な舞台を扱いながらも、五編中落語界ネタが三編しかなく、しかもそのうち二編が同じ高座妨害ネタというのもちょっと芸がないんじゃないかと思った。案外話がつくりにくい設定なのだろうか。 筋の展開の不自然さもあちこち気になった。有無を言わさずねじ伏せるところまではまだ至っていない。
 作者はこのシリーズ以外でも<創元推理>に幽霊による犯罪が実在するというSFミステリー風の「丑三つ時から夜明けまで」シリーズを発表するなどいろいろ短編形式でできることを模索しているようである。 どうも言葉にしにくい部分ではあるのだが、作者の持ち味のよいところを伸ばしていってほしいと思う。


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