鮎川哲也編『硝子の家』

鮎川哲也編『硝子の家』


第一部・幻の名作

第二部・”本格”の鉄則

 「本格推理」シリーズ特別編として幻の名作を選りすぐって編まれたアンソロジー。主に関西で活躍した三人の作家より長編・中編・短編1本ずつ。

 島久平『硝子の家』は、鮎川哲也が『ペトロフ事件』で一位入選した<宝石>の百万円懸賞で三位になった作品。<宝石>発表(1950)後は一度<幻影城>に採録(1978)されたことがあるが、単行本になるのは今回が初めて。
 大阪の私立探偵、伝法義太郎は奇妙な依頼人から知多半島の突端にある硝子の家に招かれた。それは日本有数の硝子会社社長である依頼人の叔父が建てた何から何まで硝子でつくられた家だという。
 だが、神経を病んでいた主は、密室状態の書斎で瀕死の重体で発見され、伝法の目前で謎の言葉を吐いて絶命してしまう。さらに大阪に戻った依頼人が事故死とも他殺とも思われる変死を遂げ、他にも死者の列が続いていく。
 さほど多くない登場人物のうちでいったい誰が犯人なのか。そして不可能と思われることを可能としたトリックとは。
 事件の関係者の心理に着目した伝法探偵の推理が冴える。硝子をモチーフにして機械的トリックと心理的トリックが見事に融合された。
 戦後の本格物の歴史を語る上で忘れ去ることができない密室長編と紹介されていたがその通りである。

 山沢晴雄の中編『離れた家』(1963)が今回の一番の収穫だった。初出のものがあまりに難解で不採になりそうなところを、芦辺拓の主張により作者に改稿を依頼しその新稿を採録することになったという。
 ある部屋から忽然と消えた女性が、同時刻、そこから離れた家に出現するという神霊術のようなとびきりの不可能な事件が起こる。それはある人物を標的にした奇術の実演だったはずだった。だが、発見されたときに彼女は無残な死体と化していた。彼女たちの意図の裏をかいた者がいたのか。
 関係者のアリバイ検討は殆ど分刻みの時刻表。それだけでも頭が痛くなりそうなのに隠された仕掛けはそれ以上のものだった。
 終結で明かされる真相は圧巻。傍点混じりの文章に異様な迫力がこもる。腕利きの職人がつくった精緻な機械仕掛けのような作品であり、中編という形式のよさを極め切った名編である。

 天城一の「鬼面の犯罪」(1948)は今回はいまいち理解できなかった。事件の背景にあるのがハムレットだ、と言われても、はいそうでしたかといった感じ。頭の良過ぎる人の書くものは(以下略)

 こんなに面白い作品が満載なんだったら、もっと早く読んでいればよかったと思わされた。第二集とこれから出るかもしれない第三集にも期待。


→冒頭
→鮎川哲也目次
→島久平目次
→山沢晴雄目次
→天城一目次
→読書日記
→表紙