『アトポス』

『アトポス』


 島田荘司『アトポス』を読了しました。これもまた後で<霧笛>に書きます。

 ……といつもいつもそれではあまりにつまらないので、ここに書き込んでみますか。
 ほんと、あんまり読みたくなかったんだよね、この本。またまたひたすら分厚い。背にタイトルと著者名が横書きで書いてある(^ー^;)。最近の御手洗ものは厚い割にはレベルが低いから読みたいという気がなかなか起こらない。でも、読めば話のネタだけにはなるからなあ。このごろそういうたぐいの本ばかりが多すぎる。

 さて、最初は延々吸血鬼伝説が語られる。ブラド・ツェペシュ公の遠縁に当たるエリザベート・バートリ伯爵夫人。彼女は若さを保つために侍女を殺してはその血を浴びたという。貴重な血を一滴でも多く絞り出すために彼女はなんでもやる。城の地下室は死体で埋め尽くされ、領内から若い娘は姿を消した(この辺FM大堀さんにオススメ)。隣国から徴用された勇敢な娘フロレンスは地下牢に投獄されても、仲間達の無惨な死にざまを目撃しても、希望を捨てず、脱獄への手を休めない……。
 一転して舞台は現代のハリウッドへ。ベストセラー作家のバークレィは語る。バートリ夫人が怪物として復活する顛末を。そして彼自身も殺された。ミイラのように痩せこけて髪がなく血にただれた怪物に。続いて有名女優が失踪し、怪物は5人の幼児を誘拐した。
 さらに死体の心臓を取り出して血を啜る人物の挿話と戦前の魔都上海の挿話があり、長いプロローグが終わる。ここまでで全編830ページ中350ページ。
 続いての舞台は死海のほとり。奇っ怪な建築物が立ち並ぶなか映画<サロメ>の撮影隊を次々と襲う怪事。
 全ての疑いは『暗闇坂の人喰いの木』『水晶のピラミッド』のヒロインレオナ松崎にかかる。絶望したレオナが逃亡を図ろうとしたそのとき、白馬に乗って御手洗潔登場!
 話が広がって広がって、どうするんだよおい、と思ってしまったけど、なんとか収拾してくれました。得意の病気ネタプラス建築ネタプラスロープネタ(笑)をフルに活用して。名探偵というのは系のエントロピーを極限まで低下させる存在とはいえ、やってくれるもんだ。

 ここ3年来の3作は似たりよったりの出来で、いつも失望を誘いました。SRの会ベストでは
  1990年 『暗闇坂の人喰いの木』  21位(6.48)
  1991年 『水晶のピラミッド』   9位(6.61)
  1992年 『眩暈』  30位(5.86)
です。SR方式では

ということなんですが、まあそういう訳です。

 今回の『アトポス』については、前3作と比べては大風呂敷の広げ方と畳み方が一番うまいとは言える。まあ結局いつものパターンなんだけど。それから題名の意味が割れたときにああなるほどと感心はした。
 それにしても僕は島田荘司に何を求めているのか。

 <霧笛>には何度も書いているけど、僕に取ってミステリーは幻想文学の一種と化してきている。例えば、まず最大級の怪事に骨の髄まで戦慄し、そしてそれが一片の剰余もなく解明されるカタルシスを味わう。だが事件は解決され本は読了されても、それが起こる前とは違った現実が存在し、それを読む以前とは違った自分がいる。そんな三段構えの、現実を浸食する幻想文学なのです。

 さて、『アトポス』はどうかと言うと、二段階目まではまあまあ満足させられたが、現実の浸食の仕方がまだ足りないとは思う。こんなに分厚くしてしまっても違うところばかりをさんざん書き込みしており、肝心のところはまだ筆が足りないという気がする。それがどこなのか。はて、さて。



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