島田荘司『龍臥亭事件』
島田荘司『龍臥亭事件』
光文社 カッパ・ノベルス 上下巻 初版1996.01.30
古本屋で購入
なんという迫力か。2千枚を息も継がずに読まさせられる。
御手洗が海外に去り、ひとり残され憂鬱な日々を送っていた石岡和己は、突如訪れてきた女性二宮佳世に引きずられて岡山の田舎まで連れて行かれる。そこで巻き込まれた怪事件。
上巻はとにかく展開が激しい。石岡と佳世が今は廃業した旅館龍臥亭に辿り着いたやいなや、泊り客の女性が密室内で射殺される。大騒動から一息ついたその翌日、佳世は川べりの桜の樹の下で人間の手首を掘り当てる。そしてその直後にまたしても不可思議な銃弾が飛来。
石岡に関口がどうしても重なってしまう。神経の病み具合がそっくり。まあ京極が真似たのだけど。
次々と凄惨な姿で発見される死者たち。いったい何者がそれを引き起こしたのか。果ては犯人と目された者までが。混迷。畏れ。不条理。この感覚はなんとも凄い。
下巻にて、ノルウェーの御手洗から石岡に手紙が届く。この事件は君が解け、狙われた者を命を懸けて守り抜け、と。石岡の奮闘により事件の意図が明らかにされていくが……。
******以下ねたばれ注意******
奇怪な死体の有り様は見立てだった。それも日本の代表的な猟奇犯罪を模倣した。
昭和7年の玉の井バラバラ事件、名古屋の増淵事件、坂田山心中事件、昭和11年の安部定事件。
バラバラ殺人事件といって想起される作家は、何といっても江戸川乱歩と島田荘司が双璧であろう。もうひとり、ならこの書が捧げられている高木彬光が加わるか。
玉の井の八つ切り事件では、なんと乱歩が犯人ではないかという投書がなされ、それが第二次休筆に入る切っ掛けになったとも言われる。
平成6年にもバラバラ事件が続出した。井の頭公園のバラバラ死体遺棄事件や福岡美容師バラバラ殺人事件など。
当時僕は五十嵐さんとこんな会話をした覚えがある。こんなにバラバラ事件が続くのは島田荘司の小説を真似たんじゃないかな。いや、乱歩生誕百年記念ということもありえますよ。
そしてまた僕は、島田荘司の住居が吉祥寺にあったので、不謹慎ながらも井の頭公園の事件は彼の仕業じゃないかと疑っていないこともなかった。ちょうどニューヨークに移ったぐらいのときだっけ。
日本の代表的な猟奇殺人を見立てた連続殺人というのは実に素晴らしいアイデアで、そしてそれを扱わせるなら島田荘司以上に相応しい現役作家はいなかろう。
そしてその連続殺人計画書を書いた人物として想定されたのが都井睦夫。あの横溝正史『八つ墓村』のモデルとなった津山三十人殺しの犯人。
下巻で都井睦夫の生立ちと犯罪までの顛末が170ページに渡り語られる。『アトポス』のエリザベス・バートリー、『秋好事件』、『三浦和義事件』と実話づいていた作者の手による入魂のストーリー。
先にあげられたバラバラ事件群と同様に、三十人殺しも虐げられた弱者の手による犯行だったのだ。
日本人への告発という文脈で取るとどうにもやりきれなくなる。たまたまだかどうだか知らないが京極夏彦『絡新婦の理』と同じ年の出版というのも極めて暗示的である。
非常に力作だし、読ませる迫力も十二分だが根本的なところでなんだか違和感がある。
折角のモチーフとなったバラバラ死体の扱い方が今までの作品とは違う。今までの、特に初期作では、まるでオブジェでも配置するような乾いた扱い方。今回は他に眼目があってそのために持ってきたという印象。
島田荘司作品の魅力は、不可解な謎を強烈な情念で捻じ伏せるその豪腕ぶりにあったのだが。何か情念の向かう方向が違ってしまったのだろうか。
結末での加納通子の登場にはとってもびっくり。
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